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1 輝ける男
「私も三十になる。そろそろ……」
大輝は寝間着である白い着物を纏いながら、後ろで控える唯央に向けて言った。
くつろげた格好であるのに、男として見事でしなやかな体躯で、威厳を失わない大輝に対し──平均身長もクリアした成人男性なのに、どこか委縮して見えるのは、栗色のさらさらした前髪から、ゆるく八の字に寄せた眉をのぞかせている唯央自身のせいかもしれないし……
単に、αの前のβだからかもしれない。
──貴方が三十なら、僕は二十五だ……
ほぼ十五の時から十年……仕えたことになる。
日本各地に点在するα一族の内、西都に君臨する西王家・長男の大輝──本来ならば、自分はその弟の夕輝に仕えるはずだった。
それが思いもがけず曲げられて……いま、こうして大輝の褥にいる。
「Ωを妻に娶ろうと思う」
「…………よかったですね」
それが本当になるなら──αの大輝がΩを得るのは当然だ。
しかも、『真日本』という特別エリアに保護されている中でも、極上のΩを妻に迎えることになるだろう。
これで自分は解放される──それなのに、何の感情も湧いてこない。
こんなはずはない、と、唯央がわざと唇を動かしていると……引き攣った様な顔を、見られてしまう。
その所為か、大輝に、
「おまえとは体は合うが、子作りは無理だったからな」
という言葉を、投げ落とされた。
……そういう風に、感じられた。
「──…」
「そんな顔するな。おまえも出産は望まなかっただろう?」
「……僕は、ただのβですから。子供は……Ωみたいに産めません」
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