彼女に言いたくて

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 帰りのホームルームが終わって、皆が一斉に立ちあがる。  教室の窓際の席。急いで立ちあがる気のないオレの机の前に、彼女が立った。  オレに用があるとは珍しい。  黙ったままオレは視線だけあげて、彼女の可愛らしい顔を見た。 「高雅(こうが)くん。今日はどうして、左目に眼帯をしているの?」  オレは返事をしない。ただ心の中で答える。  昨日から、白目の血管が切れてしまったみたいなんだ。鏡を見て、白目の部分全体が真っ赤に染まった自分の眼にびっくり! 我ながら震えあがった。これは誰が見ても怖いだろうと思って、今日は朝から眼帯をしているんだ。  ――眼帯しているオレ、ちょっとワケアリっぽくてカッコいいんじゃね? って思ったわけじゃない。  返事をしなかったオレに、彼女は質問を変えてきた。 「どうして高雅くんって、今日は左腕に包帯を巻いているのかな? 体育の時間に気がついたの。もしかして、怪我をしたの?」  彼女は、心配そうな表情となっている。その問いにも、オレは答えない。  だって、ウチの飼い猫のミーちゃんとじゃれているあいだに、血が滲むほどの三本のスジを鋭い爪で入れられたなんて、カッコ悪くね?  これも、ちょっと意味深な怪我っぽくて、皆の注目を浴びたいだなんて思ったわけじゃない。  たとえ尋ねてきた相手が、学年一可愛いと言われている美姫(みき)ちゃんでも、オレはむっつりと押し黙る。  なぜならオレは、孤高の人であるという立ち位置を崩したくないからだ。  それが――世間的にはクラス内のボッチと言われているものであろうとも。  ああ、そうだよ!  オレは思ったことを口にできないコミュ障だよ!  好きで黙ってるんじゃねえよ!
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