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「美姫ちゃん。今日は俺ら、サッカー部の練習がないんだ。帰りにカラオケに寄っていこうぜ」
心配げな表情の美姫ちゃんに、横からジュンイチが声をかける。
いいよな、気軽に女子を誘える性格のヤツは。
すると、美姫ちゃんは驚きの行動にでた。
興味がなさそうな顔をして窓の外を眺めていたオレを、誘ってきたのだ。
「ねえ。高雅くんも一緒にカラオケに行かない? このあと、予定がなければ、だけど……」
「はあ? 美姫ちゃん、冗談だろ?」
「こいつがカラオケなんて、行くわけないって!」
オレが返事をする前に、ジュンイチたちが驚いたように叫ぶ。
ジュンイチたちの態度は腹が立つが、そういうオレも、心の中で「ないない!」と手を振った。
だが、美姫ちゃんがシュンとしたそぶりで唇を尖らし、小さな声で続ける。
「だって……。今日、現国の授業で教科書を読んだときの高雅くんの声、すてきだったんだもの。高雅くんって、ほとんど教室でもしゃべらないじゃない? だから、カラオケなら……。もっと声が聞きたいなって……」
瞳を潤ませた美姫ちゃんに、ジュンイチが太刀打ちできるわけがない。
ぐるっと首をまわしてオレのほうへ向くと、嫌そうな感情を隠そうともせずに言ってきた。
「おう、わかった! 高雅も行くよな? な?」
そう言われたら、オレも断れない。
何といっても、美姫ちゃんに、声をもっと聞きたいと言われてしまったんだ。
その場でくるくる回って喜びの舞を披露したい気分だ。
だが、当然そんなことをする度胸も技術もなく、いかにも仕方がなさそうな態度で、オレは椅子から立ちあがった。
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