彼女に言いたくて

6/8
36人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
 ジュンイチの野郎!  女の子を――美姫ちゃんを置いていきやがって!  追いかけてくる厳つい男たちを撒こうと、オレは美姫ちゃんと狭い路地に逃げこんだ。いくつかの角を細かく曲がる。  直線の道で振り切ることはできない。  だが、オレたちの姿を見失えばあきらめてくれるかもしれない。 「どこ行きやがった! ガキども、出てきやがれ!」  息を弾ませながら、オレたちは足が止まった。  男たちの声が、だんだん近づいてくる中で、オレと美姫ちゃんは辺りを見回し、電柱の陰にかがんで身をひそめる。  美姫ちゃんがガタガタ震えているのが、触れた腕からオレへ伝わってきた。  そんな中、絶望からだろうか、オレは妙に冷静になる。  ――ここでオトコを見せずに、オレはいつ好きなオンナを護れるっていうんだ?  美姫ちゃんも、勇気をだしてオレに告白してくれたじゃないか。  オレは、憧れの美姫ちゃんのためなら死ねるって思ったじゃないか?  きっと、オレの気持ちを――いままで言えなかった言葉を伝えられたら、オレは覚悟を決められる。本当に、彼女のために犠牲となって死ねる。  言いたくて、でもずっと言えなかった言葉。  いまこそ、ここで彼女に言うんだ。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!