一 三輪との出会い

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一 三輪との出会い

   カナタが受けた取材映像はその後、世界的に大きく報道された。  ワオウ島内で、カナタは一躍、有名人となった。  ルーツは日本で、キヅキという苗字もそこから。  二代前から島の北西部で小さな農園を営んでいたが、十年前に台風被害で集落ごと壊滅し、カナタはハイスクール卒業後、リゾートホテルに就職した。  そして、職場であるホテルのバーで出会ったソラタの母親は、『純日本人』に近い血統だったが、出産後に出身地に帰ってしまい、カナタはシングルファーザーとなった……と、それぐらいのことは狭い島では知られている。  なお、客に手を出した不貞者ということで、ホテルを解雇されており、不憫だとも思われていた。  幼い子を抱え、繁華街のバーなどで働く彼に、地域住民は親切だった。  いまも──ボロアパートを出て来たカナタに、顔馴染みのおばあが声をかけていた。 「あ、カナター! テレビ観たさぁ、全世界放送だなんて、凄いねぇ~」  内容が、たとえば感動的だったとかではなく、巨大な規模での報道だったことへの感嘆だった。  少しズレている気がして、カナタは照れもあり、苦笑して返す。 「ところで、カナタの家とか仕事のことを、基地関係の人が調べてたみたいよぉ。雇ってくれるんじゃないかって、おじい達が言ってたよー」 「……どうかな」  カナタは、わからないという態度をしたが、実は、その噂は耳に入っていた。  カナタだけではなく、今回の件で、仕事が出来なくなった、或いは子供の面倒をみる為に離職を余儀なくされている親を、軍が一般職員雇用に動き始めているとか……。  このワオウ島には立派な基地があるのに、先のナヨ島でのGM発生では何もできず、申し訳なかった──ということの様だ。  GMは自然現象ではない為、発生原因はいまだわからず、予測も困難だった。それでも、情報収集と分析により軍が対策を立て、被害を最小限に抑える作戦がとられている。  とは言え、いや、それなのに──基地の近くでGMは発生した。軍は何をしていたのか、ということに、やはり、なるのかもしれない。  更に噂によると、新たに偉い士官が配属される予定で、その士官の提案で、『十五人の眠れる子供達』への支援が始まることに……それで、身辺調査が行なわれているらしかった。 「基地が雇ってくれるといいねぇ。病気しても退職しても、お金もらえるからねぇ。ソラタ君と元通りに暮らせるようになったら、その方がいいもんねぇ」  要するに、ソラタを育てていくのに、夜はバーテンダー、日中は飲食店の手伝い、繁忙期の農園でバイトなどの、いまのカナタの働き方では不安定だが、基地勤務になれば経済的にも体面的にも格段に良くなる、と、おばあは心からの親切で言っているのだ。 「俺は、ソラタと一緒に暮らせるなら──どんな仕事でも、いいんだよ。人を騙したりとか、傷つけることじゃなければ……」  そう言っているカナタはふと、傍の路地裏に不自然な動きをする人間がいるのに気づき、そちらを見た。  南国らしいシャツ姿にサングラスをかけた男がいて、手には録画も録音も出来る端末が握られていた。  島を訪れたリゾート客が繁華街を散策中……を装った、基地関係者の様な気がする。  が、単に旅の思い出を収めているだけかもしれなかった。 「にぃに、旅の人~? シェイブアイスは食べた? 美味しいお店に連れていってあげるよー」  おばあは小遣い稼ぎになるとばかり、そう男に声をかけ、連れて行こうとした。 「あっ、僕は町歩きをしているだけで……」 「おばあの知り合いがやってるお店だからよー、そこが一番美味しいサー」  いつの世も、悪気がない年配者は断れない──結局、何者か正体のわからない男は、おばあに強引に連れ去られて行った。  ……カナタの元に、基地から、『一般職員・臨時採用』の話が届いたのは、それから一週間後のことだった。  更に三日後、清掃係に配属が決まり──早速、働き始めた基地内で、カナタは、その時の男を見かけた。どうやら人事担当の人間だった様で、 「この前、なかなか旨いシェイブアイスの店を見つけたんだよ。普通に歩いてたら、絶対に素通りする場所にあるお店で……」  と、通ぶって話しているのを聞いてしまい、支給された濃藤色の作務衣姿を屈めての作業中、密かに笑った。
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