2 統合失調症

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2 統合失調症

小さい頃からトモミには、いろいろな声が聞こえていた。それは過去の自分自身の声であったり、誰とも判別のつかない、そんな声だったり。 19歳のときに、トモミは勤務先の嘱託医からの勧めもあって、精神科へ通院を始めた。そこで出された診断が、『統合失調症』だった。当時のトモミはそれを聞いて、大きなショックを受けたものだった。 そう。 統合失調症は、『寛解』と呼ばれる、症状が和らいでいくことはあっても、完治の方法がまだ見つかっていない。言うなれば精神の、『不治の病』だからだ。 しかしながら、自分でもヘンなところに執着するなあ、と思うように、負けず嫌いな面も多々あった。ひたすらトモミは、統合失調症について勉強した。主治医とも長く相談した。 でも得られる答えはいつも、服薬と通院療法で、だましだまし日々を生活すること。これに落ち着いてしまうのだった。 どうしてわたしが。 トモミは何度となく、天を神を呪った。何も悪いことなんてしてやしない。なのにどうして、わたしがこんなに苦しまないといけないの?と。 次第にトモミは痩せてきた。精神的なストレスと、もともとの食の細さもあって、女性としては珍しく高身長のトモミは、見るに少しばかり痛々しいものを感じさせた。良い言い方をすれば、モデル体型。悪く言えば、ガリガリに近い体型。 特にトモミを苦しめたのは、幻聴だった。親類から受けた罵詈雑言がPTSDとなって、幻聴の都度、あたまの中で声がわんわんと響くのだ。 トモミは泣いた。閉鎖病棟への入退院も、何度となく繰り返した。ねむれず、食べられず。生きる楽しみなど、生きる意味など、どこにも見つからなかった。 そして。ついにトモミは自殺を図った。処方されていた抗精神病薬のOD(オーバードーズ)をしたのだ。何もかもどうでも良かったし、なるようになれと。 気づいた先は、精神科閉鎖病棟のひと部屋だった。何も変わらなかった。その事実が、トモミをさらに追いやった。希死念慮は常につきまとい、保護室にも入った。生きている意味など、やはり、無かった。
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