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彼女は、猫のようにすり寄ってきた。
ベタベタしすぎず、でもさりげなく甘えてくる所も、大好きだ。
「ばけものは いけないことを考えてるみたい。
何かを傷つけたいんだって。
でも、やっちゃいけないことだっていうことも、知ってる。
傷つける何かを持っていると、特にそうなるんだって。」
一回り小さなぬくもりが、俺に触る。
「・・・それが、包丁だった。」
目を細めて玉ねぎを切る彼女からは
鍋の中の人参が菜箸に刺さらず苦労する彼女からは
カレールーを微笑んで溶かす彼女からは
そんな雰囲気は伝わらなかった。
「包丁持つとね。色々考えちゃうの。
どれくらいの厚さまで切れるのかな?とか。
これで家中のものを切ったら、どうなるのかな?とか。
包丁片手に飛び出して、大声を出しながら振り回したら、どんな反応されるのかな?とか。
・・・でも、それって人の迷惑になることだもんね。」
声のトーンが、少し落ち込んだ。
「そうして最後に見るのが・・・包丁を持っていない方の腕。
こう考えちゃうの。
ー 私がもし傷ついてたら 誰か心配してくれるのかな? ー
って・・・」
俺は、黙ってその言葉を聞いた。
彼女は、相変わらず穏やかな顔だった。
しかし どこかに影がありそうな・・・。
「由紀っ」
「きゃっ・・・ケンちゃん?」
俺は無意識のうちに、彼女を抱きしめていた。
彼女は俺の胸に抱かれ、とまどいながらも嬉しそうだった。
「もうっ・・・どうしたの?ケンちゃん///」
「由紀・・・大丈夫だよ・・・」
「・・・ケンちゃん・・・。」
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