『ある日の会話』

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『ある日の会話』

「ねぇケンちゃん」 夕食のカレーライスを食べ終え、こたつでまったりしていると、斜め前から由紀が話しかけた。 付き合って2年目になる彼女は、共通の友人の紹介で知り合った。特別美人というわけではないが、少しタレ目の小動物を彷彿させる瞳と、栗色のロングヘアー、おっとりとした口調が、俺に安心感を与える。 「なんで私が最初に包丁をしまうか、分かる?」 「え?どしたの急に。」 俺は、ウトウトが一気に覚めた気がした。 彼女はいつもと変わらない穏やかな顔でこちらを見つめている。 「…そういえば、確かにしまってるね。使ったらすぐに。」 「うん。なんでだと思う?」 彼女はこたつの布を口までかぶってこちらの答えを待った。 え、なんか可愛い… 「うーん・・・ずっと出してると、落ちたりして危ないから?」 「うん。それもあるんだけど・・・」 彼女は一瞬笑ってから、優しく答えた。 「私の中に 『ばけもの』 がいるから。」 「・・・ん?」 予想外の・・・というか、予想できないような内容が彼女の口から出てきたことに、俺はもう一度聞き返してしまった。 彼女は嫌な顔一つせず、もう一度答えてくれた。 「私の中にはね 『ばけもの』 がいるの。」 「・・・ばけもの?」 「そう。ばけもの。」 ・・・一体何のことを言っているのだろう。 なぞなぞだろうか? この状況で? 彼女はパステルブルーのマグカップに口をつけ、ココアを飲んでいる。 幸せそうだなぁ・・・。 「・・・ばけもの って?」 彼女がココアを飲み込むのを待って  俺は聞いた。 彼女は こたつに潜ったまま、すすっと体をこちらへ近づけてきた。 「知りたい?」 「うん。」 「私の中には 真っ黒なばけものが住んでるの。 んー、なんて言ったらいいのかなぁ・・・。いつもはとっても良い子で、静かにしてくれる。 でもね・・・時々悪い子になるの。 いつも悪いことを考えてるみたいで、それを私にさせようとするの。」 「・・・心のなかにいる、もう1人の存在みたいな?」 「そうそう。そんな感じだよ。 ばけものは いつの間にか住んでいたの。 何がきっかけかは 分からないけれど 間違いなく住んでいるの。その子の感覚が、私の感覚になるの。」 こんなに不思議な話をするのは 恐らく初めてだ。 内容はどうあれ、彼女の美しさは変わらない。
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