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…目が覚めると、白い。窓の外ではない。目の前が全て白い。息も下も横も白い。そして上だけは…黒い。
僕は目を見開いた。寒いと知っているのにどっと汗が出て止まらない。心拍数も上がる。ここは外だ。真夜中の雪空の下だ。マフラーも一番厚い上着も何処にも無い。代わりに与えられていたのは…縄。
繰り返し見たニュースが頭の中に渦巻いている。体の芯から震えてしまって上手く声が出ない。口の中にほんのり柚子の味が残っている。そうだ、のど飴の中にきっと……「!!!」
白い世界に目が慣れた時、声にならない悲鳴がやっと出た。全身白に身を包んだ誰かがそこに立っていて、じっと私を見ていた。誰か、としか言いようがなかった。助け人でない事以外は。帽子とマスクの間の目だけが、色を持って浮き上がって強調される。合い続ける目がただただ怖かった。
「白い殺人鬼…」
震える唇で私はそう漏らしていた。凍死する。その目に見届けられながらゆっくり死ぬのだ。長く眠っていたのか体は冷え切って既に限界で、藻掻ける力がない。冷え切ってなお、汗や涙や涎が益々体を冷やしていく。それでも言葉は振り絞る。「なんで…やめろ…」
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