シロ

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「あんたの為だよ。」 白い殺人鬼はそう言った。それ以外はもう何も言わなかった。微動だにせず、弱っていく私を白い目で見つめ続けるだけだった。殺人鬼への恐怖は段々と、死への恐怖にシフトしていく。 私は自らの人生について考えざるを得なかった。これは解放か。そうなのか。私がつまらなそうに生きていたからか?嫌な事ばかりと酒をあおるだけの人生だったからか?一人細々と生きる私の人生は見るだけで辛いくらい惨めだったろうか。… 凍死は楽だと聞いた事がある。死ぬのは怖いが、それでもなるべく楽に死ぬ方が幸せだろう、と、そう言いたいのか。 「愉快犯」「許せない」コメンテーターの言葉が走馬灯に組み込まれる。私もそうだと思っていたが、有難い、とこの鬼に言うべきかもしれないと思わされてきた。最期に安息をくれて……… 「嫌だあぁっ!」 がばりと飛び起きた。びしょびしょにかいていた汗は、布団の中で暖かかった。荒れている息も白くない。白いのは窓の外だけだ。まだ雪が降っている。 いつから夢だったのか。最後に見たニュースの記憶から一日経った朝だった。おそらくまた、酔って記憶を亡くしたのだろう。剥ぎ取られた防寒具はちゃんと部屋にあった。色んな防寒具があちこちに放ってある。どれをいつ買ったのか、よく分からない。 寝た気がしないし、防寒虚しく少々風邪が酷くなった様な気がするが、これも会社を休める理由にはならない。しかし、死ぬよりは全くましだ。間違いない。今日は熱燗はやめてとっとと寝よう…。そう思いながら初めて使う上着に片腕を通した時、インターホンが鳴った。知らないうちに床に散らばっていたのど飴もそのままに、玄関を開ける。
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