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引っ越し
「我々は大正13年のテキサスに移住します」
令和元年1月半ばの日曜日。
サザエさんを見ながら食事をしていた父が言った。
「自分が死ぬまで、死にゆく人の為に働け」と言っていた父がそう言った。
俺は父が中二病を疾患したのかと思って鼻をかんでいたティッシュを、母は口に運び掛けていた箸を落とした。
あんぐりと口を開けて続きを待ったが「来週の日曜日です」とだけ言って父は食卓を後にした。
「唖然とする」とはこう言うことか。あんぐりと言う言葉はその表現の元がわからない。
でも、母も同じだったのだろう。
立ち上っていた味噌汁の湯気が見えなくなった頃にやっと口を開いた。
「買い物に行くって意味かな?」
肉、魚、野菜から酒まである地元のスーパーに結びつけるのがやっとだったんだろう。
帯広辺りにあるテキサスというスーパーだ。
ウチから一番近いのは、中島みゆきや吉田美和が卒業した高校の近くにある東5条店だ。
でももちろん「絶対違うと思う」としか言えなかった。
「"我々"には俺も含まれてるのかな?」
この春、札幌の大学を卒業して、帯広で就職が決まっている俺も引っ越しなのか?という意味だ。
「だろうね」
しかも、大正13年のだ。
今年は令和元年。
何年前なのかもわからない。
「どうするの?かあさん」
「とりあえず…」と母は立ち上がった。
「食器片付ける」
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