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神を信じますか?
俺から言うなら、父がいい加減なのは俺が生まれた時からだから、よく言えばもう慣れた。
母から言わせれば、父がいい加減なのは俺が生まれる前からだから、空気みたいなもんで何の不思議も無いそうだ。
「あの人は空気みたいなもん。まあでも、必要なのは酸素だけで、空気ではないんだけどね」とは母の名言だ。
そもそも、大正13年は1924年らしい。
ダラス空港が出来たのは1975年だ。
2020年の自宅から地下鉄に乗り、1975年のダラス空港に着いて、1924年の支店に赴任するのだ。
「父よ、正気か?」おれならそう聞くな、と友達は言った。
「正気だ」と父の代わりに答えておいた。
飛行機を降り、バスに乗り換える。
「バスを降りたら大正13年だ」と父は言った。
「違うおとうさん、1924年よ」と母は言った。
「Do you believe in God? 」と隣の席の男が言った。
「はい?」
「Do you?……believe……in God」
「あーはいはい。神を信じるか?てこと」
「違う」と父が遮った。
「神の存在を信じるか?ってことだ」
「おんなじでしょ?」
「おまえは俺の存在を信じるか?」
「まあ、そこにいるからね」
「では俺を信じるか?」
そういうことか。
神を信じるイコール神の存在を信じている。
神の存在を信じていても、神を信じているかどうかわからない。
でも「of course!」と母が言い放った。
それが神と父のどちらに掛かっているのか分からなかったが、父も隣の席の男も満足げに頷いた。
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