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2:男娼館でも腐女子
到着と同時にガッタンと大きく揺れ、次にフワンフワンフワンと小さく揺れ、揺れが治まった頃に輪留めが置かれ、御者さんが馬車の扉を外側から開いてくれた。
「ちっ、もう着いた」
私を膝抱っこ中なアンソニー、不穏な言葉を吐き出す。
目的地に辿り着いたのに不機嫌になるとはなにごとだ。
膝から降りようとした私の腰をとって引き寄せ、横抱きで馬車から降ろされたのは何かの罰だと思う。
慌てる私を尻目に、アンソニーは私を抱っこしたまま、知らない建物の玄関アーチを潜った。
「その方が、詳しい方なのですか?」
玄関入ったら知らない人が声かけてきた。
ひえええっと、アンソニーの胸に顔寄せてくっついたのは条件反射だ。
『知らん人→怖い→隠れなきゃ』の反射である。
「ああ、恋人なのですね。失礼しました。私はこの館の支配人でオーグスト・ハイエルと申します。お見知りおきを、お嬢様」
館の支配人……。よく分からないけど、ここの主人ということかな。
それとこいつは恋人じゃない。勝手にキスしてくるキス魔です。
挨拶されているから挨拶を返したいな。でも知らない人怖い。
私はアンソニーに縋りついた体勢のまま、おずおずとオーグストさんとやらに向かって頭を下げた。
これで許してください。ハローもこんにちはも言うの無理です。
「──うぐっ、マリちゃんくそかわ……っ! おい、俺のお嬢さんに惚れるなよ」
「そんなことしたら貴殿に殺されるでしょ。しませんて」
「よく分かってんじゃねえか。よし、こっからはビジネスだ。部屋に案内しろよ」
「はいはい」と呆れ顔のオーグスト支配人。
あれだね、アンソニーの態度に慣れている感。
案内されたのは、モニターがいっぱい並んだ部屋だった。
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