聖地巡礼-偽りの第二聖地

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聖地巡礼-偽りの第二聖地

 霧のないノウレッジ・ビナーの街並みは、街を歩くライトたちに全く違った姿を見せていた。  足元の地面が鉄とよく分からない材料でできており、歩く度に高い音が鳴る。  屋根が尖った特徴的な建物も同じような材質で造られており、朝陽を反射して光っていた。どうやら山の麓で見た光の正体はこれらしい。  吹き抜けていく冷たい風に手を擦り合わせながら、二人は先日エリスらが指定した待ち合わせ場所へ向かう。  街中を上へと歩いていった先に、広大な山の景色と柵が張られただけの何もない広場へ到着した。  遮るものがないため、強まった冷たい風を全身に受けながら周囲を見渡す。待ち合わせをした二人の姿は見えない。  よく見てみると、各所に太い止まり木のようなものが柵に取り付けられている事に気付く。  なんだろうかとそれに近付いた瞬間、ライトたちを巨大な影が覆う。 「お待たせー!」  頭上から聞こえてきた声を追って上を見上げると、山の中腹あたりで遭遇したあの怪鳥が二体、巨大な翼を羽ばたかせて此方に迫っていた。  思わず身構えるライトとガイアをよそに、ゆっくり下降していった怪鳥がその大きな足で止まり木を掴む。  重みにぎしりと音を立てて軋んだ止まり木は、怪鳥を乗せてなお曲がることなく真っ直ぐ立っていた。  遅れて怪鳥の背中から人影が降りてくる。エリスとカイムだ。 「あの、これは……?」  二人の姿を認めたライトは、大人しく翼を畳んで止まり木に居座る怪鳥へ視線を向けながら思わず質問する。  労るように怪鳥の頭を撫でていたカイムが「騎獣ですよ」と答えた。 「この辺りに生息している怪鳥ロックバードを交配して品種改良したものです」  品種名は"ルフ"。名の由来は伝説の巨鳥ロック鳥の別名からとったのだという。  険しい山の中にあるこの街では貴重な移動手段として重宝されているのだと説明を受けた。  よく見れば、二人が戦った怪鳥と比べてくすみのない白い毛並みが美しく、猛禽類のような顔立ちもやや丸みを帯びていて大人しそうだ。  カイムが擽るようにルフの頭を掻くと、気持ち良さそうに目を細めている。 「これが噂の騎獣……!」  本で軽く触れられていただけの騎獣を直接見られた感動でライトの表情が喜色に輝く。  そんな傍ら、対照的にエリスに撫でられたルフは何故かモッ! と白い羽根を膨らませて嫌がっていた。「なによ」と頬を膨らませるエリスはどうやら撫でるのが下手ならしい。  プイとそっぽを向くルフとエリスのやり取りを見ていたガイアは、人と魔獣がうまく共存して暮らす様子を密かに称賛していた。 (変わり者の街ではあるが、種族に囚われない良い街だ)  臍を曲げてしまったルフにいちゃもんをつけることに飽きたエリスが、ポケットから首に下げているものと同じ形の笛を取り出してライトとガイアに手渡す。  手にもってみると、微かに魔力が込められているのがわかる。 「これがルフの笛。厩舎からの貸し出し物だから、後で返してね」  そう言って吹くよう促すエリスに従って、ライトは笛を吹いてみた。  空気が笛を通る音だけが微かに聞こえる。大丈夫だろうかと笛の中を覗き込んだ瞬間、頭上から甲高い嘶き声が響いて目の前の止まり木にルフが舞い降りた。  キュルルと鳴きながら頭をくるりと傾げてライトを見つめるルフに思わず感動の吐息が溢れる。  触ってみると、空気を含んで暖かい羽毛の滑らかな肌触りが癖になりそうな心地だった。  四体のルフが白い翼を広げて崖や岩の間を縫うように空を滑っていく。  隊列を組むように並んで飛ぶルフたちは、先頭からエリス、カイム、ライト、そしてガイアといった順で乗せていた。  人を乗せているとは思えない滑らかな飛行で危なげなく目的地までライトたちを運んだルフたちは、全員が降りるのを確認すると何処かへ飛んでいってしまった。必要になったらまた笛で呼べという事だろう。  第二の聖地への入り口は切り立った崖の中腹にあり、ルフに乗らなければ来られないような場所にあった。  好奇心に駈られて崖の下を覗き見たライトは、吸い込まれるような底の見えない高さにヒュンとする感覚を受けてそうっと端から離れる。 (落ちたら絶対に帰ってこられなさそう)  見てしまった事をやや後悔しながら、入り口となっている鉄のような材質の巨大な扉に近付く。  街のものと同じ種類の材質でできた硬い床へ視線を向ける。足元の床には円形に複雑な模様……魔方陣が彫られており、ライトの魔力に反応して薄ぼんやりと光が灯った。  先に他の全員を乗せてからライトが魔方陣の上に乗る。すると"ポーン"という不思議な音を立てて魔方陣が起動した。 《ザザ……第三……、理…の……へ…向かいます》 「えっ」  何処からともなく聞こえてきた無機質な声に三人から驚きの声が上がる。  うち二人はこの聖地を熟知しているはずのエリスとカイムだった。 「こんなアナウンス流れた事ないわよ!?」  動揺するエリスとカイムをよそに、ライトは考え込むように表情を険しくする。  声をあげた最後の一人はライトだ。 (聞き間違いじゃなければ"第三"と聞こえた)  ここは第二の聖地の筈だ。かつて読み漁ったどの文献もそう記しているのをしっかり記憶していたライトは、一つの仮定を思い浮かべる。 (文献に記されていた聖地の数は全部で七つ。王都エリシオンを出発地点として全て順に巡れる位置にあったはず)  何処かに記されていない聖地が隠されている……?  もしくは、記録から失われてしまった? そんな考えを脳裏に巡らせながら、ライトと仲間たちは転移魔法の光に包まれて消えた。 
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