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彼らを包む転移魔法の光が弱まっていく。光が完全に消え視界が拓けると、そこは石のような鉄のような黒色の不思議な材質の壁で囲まれた洞窟の中だった。
照明の類いは何処にも見当たらない。しかし、洞窟内は不便しない程度の薄明かりに満たされている。
どうやら明るさの正体は壁を走る緑色の光のようだった。近付いて見てみると、微かに稼働音がする。
「なにこれすっごい!!」
興奮したエリスの声が洞窟内に木霊する。ハァハァと息を荒くしながら壁にへばりつき何やらライトに理解できない単語を連発している少女の見てはいけない姿から目を逸らすと、楽しそうに笑いながら見慣れない謎の機器を弄くるカイムが目に入った。
無言でライトの側へ寄ってきたガイアが奇行に走る二人を見なかった事にしてライトに話しかける。
「気を付けた方が良さそうだ」
「どういう事ですか?」
意図をはかりかねたライトが問い返す。すると、ガイアが視線で洞窟の先を指し示した。
「この光は全て奥に向かっている。恐らくはマナだろう」
ガイアの言を聞いたカイムが機器をしまいながら会話に参加する。
「ワタクシも、気を付けた方が良いと思いますよぉ」
「同意見ね。だってここ、普段行ける場所と違うわ」
急に真面目な顔をして戻ってきたエリスが話し始める。彼女たちはノウレッジ・ビナーに住む研究者だ。この聖地をそれなりに調査したこともあるのだろう。
「勇者が通る道と、普通の人が通る道は違うのね……」
この入り口で得た情報をまとめると、一つの可能性が浮かんだ。
「また、試練とやらが待ち受けているのかもしれないな」
ライトの脳裏に浮かんだ言葉をそのまま読んだかのように呟いたガイアの発言を受けて、各々警戒を高めながら奥へと足を向けた。
この洞窟内にて、ライトたちは幾度か"敵"に襲われた。
「"ラピッドファイア"!」
エリスの持つ杖から魔方陣が展開し、幾つもの小さな火球が放たれる。
高速の火球が綺麗な直線を描き、正確に敵を撃ち抜く。
胴体を火球で穿たれ、動かなくなった敵は金属のような機体(からだ)を持ち、様々な生物の形を模していた。
巨人を模した謎の生命体は、灯っていた赤い光の模様を暗くして完全に沈黙する。
ライトたちはそれらを"ゴーレム"と仮称した。
「ライトの予測通りだな」
大柄なトカゲ型のゴーレムを一刀両断して一息ついたガイアがマナの粒子となって消えてゆく様子を眺めながら溢す。
「模様の色に対応した魔法への耐性が極端に低い、か……」
例によって手記に今まで遭遇したゴーレムの特徴を書き連ねながら、ライトは怪訝な表情を浮かべて考え込む。
「どう見ても人工的に造られたものなのに、なんでわざわざあからさまな弱点をつけているんだ?」
ふむと呟いたライトの言葉に、カイムが首を捻った。
「なんだか授業を受けている気分ですよねぇ」
「わかるわー。"相手に有効な魔術を選んで使おう!"みたいな感じよね」
二人の言葉にライトがはっとする。
「……そうか、これは試練だ」
聖地は、魔王と戦うために勇者の力を高める場だ。それはただ祝福を与えるだけではなく、時に試練を課して経験や知恵をも高める役割を持っているのだろう。
今回訪れたのは第三の聖地。戦いの基礎を体感で学ばせる意味も込められているのだと察せられる。
「つまり、相手の特徴を"理解"する重要さを伝える場ということか」
ガイアの呟きが静かに落とされた。
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