折り返す聖地巡礼の旅

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 無事に冒険者ギルドのメンバーになることができたライトとガイアは、早速セットコクマ付近で出来そうな依頼を探すため、掲示板を眺めていた。  掲示板には様々な依頼の貼り紙がされており、掲載料と手数料さえ払えば誰でも気軽に依頼状を出すことができる。  中にはギルドから直接出されるような公式なものもあり、そこから冒険者が自由に依頼を選んで任務をこなすといった形式だ。 「セットコクマ付近で出来そうな依頼、ありそうですか?」 「"ワイルドハウンドが馬車を襲うので護衛して欲しい"……このワイルドハウンドというのはあの狼の魔獣のようだな」  手に取った依頼状を詳しく読んでみると、依頼者がセットコクマの商人だった。  読んでいたガイアから依頼状を受け取ったライトも目を通して「これなら一石二鳥ですね」と頷く。  この依頼を受ける事にした二人は受付で手続きを済ませると、依頼者へ連絡を取るために奥へ行った店員を待った。  暫くして連絡が取れたらしく、応接室に通される。  冒険者ギルドの施設内には、ここと同じような応接室が幾つかある。依頼者と冒険者が依頼の内容について気兼ねなく話せるようにとの配慮だ。  応接室で待っていると、恰幅の良い男性が部屋に入ってきてぺこりと一礼した。 「今回、依頼を出させていただきました商人のアランと申します」 「冒険者のブランク、パートナーのガイアです」  素早く立ち上がり、礼を返したライトが自己紹介をする。礼儀正しい口調に目を丸くした商人のアランは、人懐こそうな笑みを浮かべて「よろしくお願い致します」と握手を求めた。 「セットコクマ付近は以前、魔族がワイルドハウンドを操り商隊を襲うことが頻発していた事は御存じでしょうか」 「はい、その話は聞き及んでいます。ですが、魔族は討伐された筈では……?」  実際は討伐した張本人なのだが、息をするようにシラを切ったライトは不思議そうに首を傾げる。 「魔族に操られていたワイルドハウンドが悪さを覚えてしまったらしく、今では裏道も使えなくなってしまったのですよ」 「それは……」  ですので、セットコクマに行く際は護衛を依頼するのが今の主流なのです。と締めくくった商人の話に、二人は顔を見合わせた。 「そういう事でしたら、お任せください。ワイルドハウンドなら群れとの交戦経験もあります」 「おぉ、それは心強い! ありがとうございます」  快く頷いたライトに喜んだ商人が改めて書類を差し出してきた。  こうして直接依頼人と話をした後に、正式に契約を結んで任務につくことができる。  場合によってはギルドを仲介とした依頼の発行などもあり、形式は様々だがこういった形の契約が一般的だ。  時間の指定を受けて、明日の早朝出発することになった。護衛任務を受けるにあたって、念のため魔石などの道具を買い足した二人は宿屋に戻っていった。  部屋に戻り、風呂から上がったガイアは髪を拭きながらライトが読んでいる手帳に目を引かれた。 「それは、いつも書いている手帳か」 「はい。ワイルドハウンドの特徴をもう一度把握しておこうと思いまして」  一番始めの方のページに書かれている魔獣の情報に目を落としながらライトが懐かしそうに微笑む。 「なんだか、旅を始めたばかりの頃みたいですね」 「そうだな」  新しく魔獣の名前が書き足された手記をガイアも覗き込んで笑う。書かれた特徴の数々に相変わらずマメだなと心の中で呟いた。 「……定期検診するぞ」  肩を叩いたガイアに頷いたライトは、上に着ているものを全て脱いで肌を晒した。  真剣な目で眺めながら肌にそっと触れるガイアの手に、やはりゾクゾクとしたものを感じながら耐える。  ふと、微かにガイアが吐息を溢したのでどうしたのだろうかと顔を伺うと、眉尻を下げて少し浮かない表情を見せていた。 「やはり……全く回復していないな……」 「そうですか……」  思案するように顎へ手を宛てたガイアは、ライトへ真っ直ぐな目線を向ける。 「あまり聞かないようにしていたが……ライト、あの部屋で何をされていた?」  遂に訊かれてしまったか、と眉をぎゅっと寄せたライトが俯く。出来れば思い出したくもなかったが、きっとガイアは治療するための手掛かりが欲しいのだろう。  長い息を吐いたライトは、ゆっくりと顔を上げてぽつぽつと少しずつ、あの日あった出来事を話し始めた。  "消毒"と称してライトの魔力回路に干渉してきた司祭は、切れ味の悪いノコギリで刻むように彼の魔力回路を削り取ろうとしていた。  あまりの激痛に堪えきれず、絶叫を溢しながらもその苦痛に耐え続けるライトに司祭の表情が歪む。 「抵抗はお止めなさい。苦しむだけですよ」 「こと、わる……ッ」  全身にふきだした汗を拭えずに垂らしたまま、尚も鋭い眼差しで相手を睨み付けるライトの姿に司祭は苛立ちのままに干渉の力を強めた。 「ぐぅっ……!」 「魔の者との契約などさっさと切ってしまった方が身のためですよ」 「絶対に、切りません……ッ」  強情な勇者様だ、と唸った司祭はより強く、ライトの魔力回路に魔力の刃を突き立てた。抵抗する力によって上手く契約を切除できない。  そうして長時間、延々と攻防を繰り返す間にライトの魔力回路は無惨にも傷付けられてしまったのだった。 「……そんな事が」  だからあの時、魂をヤスリで撫でられたような感覚がしたのか、と納得したガイアは眉を寄せてライトを睨む。が、直ぐに表情を和らげて頭を下げた。 「私のせいで……すまない」 「俺が好きで選んだ事なので、気にしないで下さい」  気落ちした様子で謝るガイアに慌てながら手を振ったライトは、話題を切り替えるように声色を変える。 「それで、治りそうですか?」 「自然治癒するとなると、1ヶ月以上は掛かるだろう」  労るように腕を撫でながら見立てを語るガイアにライトは眉を下げた。1ヶ月以上は長すぎる。 「何かいい方法は……」 「……、無いことはない」  困り果てた様子のライトに、やや躊躇しながら返したガイアが目を伏せて言葉を途切れさせる。  あるんですか、と迫られて尚も迷う素振りを見せたガイアは、漸く目を合わせると躊躇いがちに口を開いた。 「恐らく、君には酷な事になるが……後悔はしないか?」  珍しく迷っている様子のガイアに驚きながら、余程酷な内容なのだろうと唾を飲み込む。  暫し悩んだ末に、ライトは覚悟を決めて頷いた。
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