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2_お嬢様学校ってそんなにいい所じゃない!
「ちょっと、朝倉さん!白薔薇姫になんて口を聞いているの!?」
家から一番近いという理由で地元のお嬢様学校に進学していた。地元で力がある家のお嬢様が集まる学校で有名だったけれど、そうはいってもただの女子高でしょとタカを括っていた。
入学前の推測と反して入学してから学業以外の面倒で後悔していた。学校からは卒業後も品行方正を求められ生徒からは親の仕事の優劣で序列を作るというありさまだった。とは言っても一般の公立中学から進学して一般のサラリーマン家庭出身の私はそんなこと知る由もなかった。
私が華以外に友人(但し高校卒業後は連絡していない)と呼べる人が25歳という立派な社会人になってもいないのはこのお嬢様学校に入学してしまった事が大きい。卒業した高校名から大学では違う目で見られてしまい息苦しかった。
そんな中で高一で同じクラスだった華に普通に話しかけていたら言われてしまった。
「白薔薇姫?」
「まあ!白薔薇姫の事をご存じないのですか!?」
この突っかかってきた生徒は……なんという名前だったかな。華と同じ中学の出身で華の親衛隊の隊長をしているという事を堂々とのたまわる人物だった。実際に親衛隊があって組織として機能していたけれど、私としては時代錯誤も甚だしいとしか思えなかった。ただのクラスメイトに話しかけただけなのにこの言われようだ。卒業するまでこの女生徒を含め親衛隊全体から侮蔑の視線と言葉を浴び続ける事になった。
残念な事に卒業までこの女生徒とは同じクラスだったのだけれど華の家にしか興味がないというのはヒシヒシと感じる事となった。
華としては困った顔しているしかなかったようで何も言わなかったけれど、この出来事が私と華を友人とする事になるので親衛隊自体には感謝をした方がいいのかもしれない。…訴えられるなら精神的苦痛を今からでも訴えたい所だけど。
ちなみに教師の扱いはそういう世界の人間からは使用人としてしか見られてなかった。私立という事もあり、そういう世界の家であるならば学校に多額の寄付は当然しているので注意でもしようものなら自分の首が飛びかねない。中学までは教師を信頼していたけれど入学早々諦めた。
「朝倉翠様でお間違いないでしょうか?」
その日の帰り、靴をトイレのごみ箱から回収してから校門に向かっているとスーツを着た恵さんから声をかけられた。恵さんは華の専属メイドでスーツを着ているとキャリアウーマンという感じでカッコイイ。知らない人からは常にメイド服を着ていると思われがちだけど、屋敷の中で外からの埃を振りまきながら仕事をするなんてありえないという考えなので外ではスーツだった。私が知っているメイドさんは恵さんだけなので他所のメイドさん事情は知らない。
当時の私はどこの誰だか分からなかったので、華のメイドという事を恵さんがいうまでは警戒して頷きすらできなかった。華が話したがっているとの事で車の方に案内された。当時は知らなかったけれど校内に車を入れられるのはそれなりの寄付額を学校に入れている家だけれども、他とは違う専用区画を用意されていたのは白石家だけだった。それだけでも周囲が白石家を他の家と同列に扱っていないことを表している。私達の高校程平等という言葉が上辺だけになっている所はないだろう。実際の社会を早めに感じるいい高校だと思うかどうかは人それぞれだけど純粋だった私はそれほど前向きにはなれなかった。
スモークのかかった黒塗りの車のドアを恵さんが開けてくれたのですぐに乗り込む。人に見られたら明日は何されるのか分からないという事が頭をよぎったからだ。白石家専用区画に用もなく立ち入ったら後で何があるか分からないので、私が白石家の車の付近にいる事を目にする人物はいないのだけれど当時の私はそんな事は知らない。
「先ほどは申し訳ありません。」
ただ頭を下げるだけでなく靴を脱いでシートの上で華はまさしく土下座をした。
「朝倉様、私からも謝罪をさせて下さいませ。華お嬢様のお立場では朝倉様を庇うわけにはいかなかったのでございます。」
恵さんは運転席に座っていたので土下座はせずに視線をこちらに向けて頭を下げていた。恐らく土下座ができる場所だったなら同じくしていたに違いない。華お嬢様という呼び方は対外的な呼び方で華の前では華と呼び捨てにしていた。後に私の前でも呼び捨てにするようになった。華は卒業までお嬢様のしゃべり方のままだったのでそれが普通だと思っていたのだけれど、再会した時の口調を考えると心の緩みが出ないように気を張っていたのかもしれない。
「えっと、白薔薇姫」
「申し訳ありませんがその呼び方はご遠慮いただけないでしょうか。華とお呼び下さいませ。」
「それだったら私も翠でいいわ。分かったから頭を上げて、えっと…恵さんも。」
立場を考えたら私の言葉遣いはおかしいのだけれど高校一年生の私に敬語というものは脳内辞書に登録されていなかった。
それから恵さんが車を静かに発進させてからは華の周囲の事を話してくれた。私が気にしなさすぎなだけなんだけれど、打算無しに普通に接したのは私だけだったようですごい感動していた。
当時どころか今でも思うのだけれど家がどうとか馬鹿じゃないのだろうか。
こうして私と華は友人になって恵さんも何のしがらみもない友人ができた事にいたく喜んでくれた。私のような庶民の家に車横付けは騒ぎになりそうだったので近くの道で降ろしてもらった。
翌日は華が朝に親衛隊の面々に私と友人になった事を伝えたようで登校してみると私の机の取り換え作業をしていた。運び出されていく私の旧机をチラッとみると落書きどころかボコボコに段差がついていた。…お嬢様学校の行動力の恐ろしさに戦慄した瞬間だった。ちなみに上履きも新品になっていたけれど以前の上履きがどんな惨状になったのかは考えないように努めた。
華の目に付くような嫌がらせはなくなったけれど、華の目に付かないような嫌がらせは卒業まで続いた。華は元々昼食の時くらいリラックスする為に一人で取るようにしていたらしいのだけれど、この日から一緒に食べるようになったのでそのヤッカミもあったのだろう。
この友人宣言が影響して卒業時まで華とはクラスメイトであり続けた。親衛隊隊長もずっと同じクラスだったことからもとクラス決めにも学校側の配慮が働いていたのは明白だった。
こんな高校生活を送っていたのに再会したらアニメイトーに行きたがるとか誰が想像するのだろうか。
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