1_再会で向かった場所は…

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1_再会で向かった場所は…

「あれ!?翠??」  駅の中に店舗を構える世界的ハンバーガーチェーンのワグドナルドでシェイクを注文していたら後ろから声がかかる。振り返って見ると清楚な服装ながらどこか活発な印象を与える魅力的な女性が立っていた。  …誰だ?というか東京で友達と呼べるような関係が築けなかったので頭に靄がかかっていた大学の交友関係を必死に思い出す。まじまじと見ていると不満そうな顔をしながら更に声がかかる。 「ちょっと、忘れたっていうの?私よ白石華。地元の高校で一緒だったでしょ。東京に出てきてたなら連絡くらいくれてもいいのに!」  「私も買ってくる」と言って華は注文の列に並びに行ったので二人分の席を取っておく。  華ってあの華なの?高校時代はもっとお嬢様っていう感じだったのに大分雰囲気変わったと思いながらもよくよく考えればもう高校卒業して7年…。大学入学と就職という2つの環境変更点もあって人が変わるには十分な機会と期間があったと思う。  そうこう考えていると「お待たせ」と言って華が隣に座る。 「連絡と言っても私は華の連絡先知らないし…、華の実家には手紙とか送りたくないし。」 「あ~、そっか。携帯持ったの大学からだから気軽に取れる連絡方法なかったね。手紙送らなかったのはむしろ助かるわ、実家というか地元関連は息苦しくて困るわ。」  お互いに携帯を取り出して連絡先を交換する。今だとそんな感じはしないけれど目の前の人物は地元名士の一人娘で正真正銘のお嬢様である。 「この携帯もね、メグ姉が保証人になってくれてようやく持てたの。実家からは携帯持たせると監視できないのが嫌だったんでしょうね。親は携帯持ってるの知らないから連絡はいつもメグ姉がクッションなってくれてる。」  メグ姉というのは林原恵という華専属のメイドさんだ。華が中一の頃から住込みで面倒を見ていた。よく大学進学を東京にできたものだと高校時代に思ったけれど、恵さんの実家が東京でそこから通学できるという事で許可が出たらしい。  それまでの恵さんの功績というのは華も感じていて、大学以降でのびのび生活できたのは恵さん一家のおかげで頭が上がらないらしい。大学の3年の時に恵さんは結婚して旦那は婿養子で恵さんの実家に住んでいて、それからは完全セキュリティのマンションに一人暮しにしてるとの事。恵さんの家から家賃を出してもらってて今は仕送りを恵さんの家に送ってるらしい。…話聞いてると恵さんの妹じゃないかと錯覚してくる。  本来の実家への仕送りを聞いてみると 「いや白石の家ってお金困ってないし。仮に困っててもあんな家に仕送りなんかする気が起きない!」  とのお言葉が返ってきた。高校時代は分からなかったけれど、相当不自由していたようだ。 「翠は大学地元だったから、そのまま地元で就職すると思ってた。」 「大学はお金の関係で地元にしただけ。学費はともかく生活費も考えるとさすがにね…。就職すれば生活費は何とかなるから元々東京に行くつもりだったし。」  趣味の関係でも地元よりも東京の方が活発に行えるから、昔から考えていたんだけどこれは華には言わないようにしていた。お嬢様には全く縁がない趣味だし。 「それならそうと高校の時に言ってくれれば、メグ姉にも話しておいたのに。メグ姉の家には私の部屋あるから東京出た時とか使えたよ。たまに帰ってるし。」  自分の部屋あるって、あなた血の繋がり無いお家ですよね…。当たり前のようにさらっというから頷きそうになってしまった。 「いや、私としては東京行くつもりだったけれど、大学卒業後どうなるか分からなかったし。」 「それもそうね~。今日ってこの後予定あるの?」  シェイクの残りが少なくなってきた時に華が聞いてきた。行こうとした場所はあるけれど、今日でなくても良いので特にないと答える。 「昔から一緒に行きたい所があったから今から行かない?ここから歩いて行けるところだし。」  頷いてからシェイクを喉に流し込んで店を後にする。昔の事を話しながら一緒に歩く、ごく一般的な友人との行動のはずなのに華とすると違和感しかない。そもそも華が道を歩くという事自体が考えられなかった。登下校は常に恵さんの送迎だったし、周囲もそれが当然となっていた。  そんな事を思っていたのが顔に出たのか華は首をかしげた。一般家庭で生まれ育ったけれどあの土地の特殊な風土に染まっていたのかと自覚してしまう。もしかしたら私自身も華を知らず知らず苦しめてしまっていたのではないか。活き活きと歩く今の華を見ていると心に鈍い重みが発生してくる。きっと今の華が本当の華なんだろう。高校の頃に見ていたのは【白石華】という役を演じていた華なんだろう。  7年という短くない期間が流れても私を認識してくれる。役者をしながらも私の事は本当の華が友人として認めてくれていたのだと嬉しく感じる。  ワグドナルドを出てからも7年という空白期間を埋めるように色々と話をしていく。  歩き始めてから15分が経過した頃、見慣れた建物を通り過ぎようとして 「あ、ココだよ。」 「ぇっ!?」  あまりにもお嬢様にはそぐわない本屋なので驚いて大声を上げてしまった。  本屋は本屋なんだけど[anime ito]という文字が青字(iのみ黄色)で書かれている本屋である。あくまでもその道の人しか本屋としか言わない店舗である。  私がその道の人というのは高校どころか唯一の友人と言っても過言にならない華にも言えなかった事なのだけれど、マサカバレテル? 「翠って昔からアニメイトーに行ってたでしょ。」  コウコウジダイカラバレテイタミタイデスネ。  物凄い嬉しそうな顔を私に向けてくる華を見ているとただ頷く事しかできない。呆然としていると華に腕を引かれて店内に足を踏み入れる。長年通っているけれど今日ほど入る事にためらいを覚えた日はない。  華は迷いない足取りで店の中を進んでいく。オジョウサマ、カヨイナレテマセンカ?  そんな事を思っていると同人誌コーナーで足を止めて同人誌を一冊手に取ってこちらに差し出してくる。私の一番好きな同人作家の【黒薔薇ノ荊】の本だ。 「翠ってこの本高校の頃好きだったけれど今も?」  何でそこまで知っているのかという疑問が頭に浮かんだけれど、気持ちを押さえてぎこちなく頷く。  恥ずかしそうな顔をしながら華は今日一番の衝撃私に与える発言をする。 「この本の作者が私っていったらどう思う?」  漫画や小説でショートして固まるという表現がたまにあるけれど、まさか実体験する日がくるとは思いもよらなかった。
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