マフラーについて

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マフラーについて

 吐く息が白くなる、とても寒い季節になった。  涼真はいつもの様に学生服と呼ばれる衣類に身を包み、鞄という入れ物をもって通学路を歩いていた。  足音を感じて振り返ると、そこにはマフラーを首に巻き付けたクラスメイトのオリーバが立っていた。 「オハヨー、涼真」 「ああ、グッモーニン、オリーバ」  二人は朝特有の挨拶を交わした。彼らはどちらも男性である。  それからオリーバは自分の首元を涼真に見せつけるようにした。 「見てくれ、このマフラー。良いだろ?」  オリーバはくるりと一回転して見せた。  冬の弱い光を受け、マフラーは鈍い光を放つ。 「ああ、良いな。どうしたんだ、それ」  涼真が尋ねると、オリーバは自慢という意味を込めてにやりと笑った。 「恋人からの贈り物さ。手作りなんだ」 「なんて凄いんだ!! ユエちゃんという女性だっけ? 彼女の優秀さには驚かずにはいられないよ」  そんな恋人から贈り物を貰える君もさすがは魅力的な男性だ、と涼真はオリーバを褒め称えた。  当然だ、という様子でオリーバは頷いて見せた。 「労働の合間に作ってくれたんだ。このマフラーは凄く軽いんだぜ」  そう言いながらオリーバは首に巻き付けていたマフラーをゆっくりと伸ばして外し、涼真に渡した。 「本当だ。これはひょっとして、チタンか?」 「そうだよ」 「加工がとても難しいんだよな。うちの姉も恋人に作ろうとして失敗していた」  姉は年上なので全てにおいて涼真の技術を上回っているのだ。  それでも不可能であったことをこなしたユエについて、涼真は感心せずにはいられなかった。 「労働に行っている所の機械を借りたみたいだし、そのおかげかもな」 「にしても凄いよ。大したもんだ。チタンを加工できる彼女なんて貴重だぞ」 「まあ、こんな技術が無くったって、アイツは俺の最高のパートナーだけどな」 「君の恋人で、彼女も幸せだろうね」  羨ましいよ、と言いながら涼真はオリーバにマフラーを返した。  オリーバはそのマフラーを再びゆっくりと首に巻き付けていく。  力を込めないと曲がってくれないため、その額には困難を示す汗がたくさん浮かんでいた。  金属は冷えるほどに加工が困難になる。防寒具であるからそれなりには暖かいのだが、外気に晒された部分はどうしても冷えて硬くなってしまうのだ。 「あ、ヤバい。そんな話をしていたらそろそろ遅刻だぞ、オリーバ」 「遅刻は不味いな。時間厳守は学生の義務だ」 「ああ、急ごうぜ」  二人は慌てて大きく跳んだ。
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