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目が覚めた。見慣れた天井。自分の体温を感じる。
「タケルくん、おはよう」
声が聞こえた。佳奈の声だ。二度と見ることがないと思っていた佳奈の笑顔。それを見た瞬間、涙が溢れ出した。
「おかえり」
佳奈の声に心を落ち着かせる。佳奈に「ありがとう」を伝えたあと、どうやら僕は玄関の前で倒れていたらしい。いきなり僕が姿を現したことで気が動転していた佳奈は、わけがわからぬまま僕を担ぎ上げ、ベッドに寝かせてくれたそうだ。
「ただいま」
僕はほんとに還ってきた。ただ、どこかにやり残したことがある気がする。言えなかった言葉? 守れなかった約束? でも、それが何かはわからない。思い出せないのか気のせいなのか。とにかく、僕の目の前には佳奈がいる。それだけで幸せだ。
「佳奈、愛してる」
僕は佳奈を抱き寄せる。彼女の身体に触れると、何もかもが許された気がした。佳奈の呼吸を感じながら、いつまでも終わらないキスをした。
窓の外、急な大雨が降り出した。まるで僕に気づいて欲しそうな雨。でも今は、何が起きても佳奈を離さない。雨音を聞きながら、僕は佳奈の身体を強く抱きしめた。
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