ヘヴンズ・リグレット

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「なぁ、タケル。あの問題、解けるようになた?」  いつしかアズミは僕のことを〈キミ〉ではなく名前で呼ぶようになった。  一時的に現世に戻るためには、ほんとにやらなきゃいけないことが多かった。そのほとんどは、現世でやってきた悪事を省みるような授業。定期的に行われる試験もあった。試験に合格するために、アズミは常に僕と一緒に授業を受け、合格するためのアドバイスをくれた。 「タケルって意外と女泣かせだな」 「なんで?」 「同じ学校の女子から貰ったバレンタインのチョコ、食わずに川に投げ捨てたんだろ?」 「ま、まぁね」 「最低……」 「知らない子だったし」 「ふつう食べてあげるでしょ?」 「たしかに」 「アズだったら、絶対にタケルみたいな男、イヤだわ」 「僕だって、わざわざアズミを選んだりしないよ。もっとおしとやかな子を選ぶね」  見知らぬ場所で学んだり試されたり。それはまるで合宿みたいだった。ただ、アズミと四六時中一緒にいるととても楽しくて、生きてる心地すらした。もう、生きてなんかいないのに。 「いよいよ明日だな」 「うん」 「ちゃんと伝えてきなよ、大切な人に」 「わかってる」 「一時間しか現世(ムコウ)にはいられないから気をつけろよ。でさぁ──天国(コッチ)に戻ってきたらさぁ──」  そこまで言うと、アズミは黙った。 「ん? どうしたの?」 「なんでもない。悔いのないように行ってらっしゃい。で、ちゃんと戻って来いよ! 約束ねッ」  アズミの笑顔はいつもと違って少し寂しそうに見えた。それは、出会ってから初めて彼女が見せる表情だった。
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