ヘヴンズ・リグレット

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「タケルって、ほんとバカ!」  天国(コッチ)に戻ってくると、僕はなぜか拘束された。そして、現世(アッチ)でいう留置所のような場所に閉じ込められた。面会に来てくれたのは、アズミだった。 「なんでこんなことに?」 「アンタ、別の言葉を言ったでしょ! 現世でやり残したことだけを果たしに戻るルールだったのに、タケルはそれを破った──」 「僕はどうなるの?」 「もう、天国(ココ)にはいられない……」 「うそだ!?」 「あれだけ注意したのに」 「ごめん。伝えたい言葉が変わったっていうか、自分の思いに改めて気づいたっていうか──」 「バカ! 自分の思いばっかり。アズの気持ち、考えたことある?!」  アズミの頬は涙で濡れていた。 「アズミの気持ち?」 「アズはアンタと違って、後悔なんかないように生きる! だからこの場でタケルに伝えてあげる」  アズミが立ち上がった拍子に、パイプ椅子が後ろに吹っ飛んだ。 「アズはタケルが大好きだった!」  大声で叫ぶと、彼女は意識を失ったように膝から崩れ落ちた。うずくまったアズミは、ただただ嗚咽を繰り返している。  僕は隣に立つ署員に尋ねた。 「僕はどうなるんですか?」 「現世に還ってもらう」 「もう、天国(ココ)には──?」  二度と戻って来られない、と署員は言った。  アズミの嗚咽はやまない。僕と彼女の間には、二人を引き裂くのに充分過ぎるほど厚い透明なプレート。僕はアズミのそばに行ってやることはできない。ただ、泣き崩れるアズミを見ることしかできない。僕はどこにいても無責任な男だ。死んでしまった僕に、生きる勇気をくれたアズミ。彼女の笑顔が走馬灯のように脳内を駆け巡った。 「もし、またどこかで会えたなら──その時は、チョコレート、食べてね」  放課後。下駄箱の前。内気そうな女子。控えめなラッピングとリボン。ツンと尖った鼻先。下校を告げるチャイム。友達の声。ありがとうも言わず、無言のまま走り出す。夕焼けのなか。振り向くことさえせずに。  その言葉は僕の胸の奥で暴れ出した。気づけば目の前のプレートを何度も殴りつけていた。拳の血がプレートを染める。署員に身体を押さえつけられながらも、アズミの名を呼び続けた。声が出なくなるまでずっと。
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