Act1、緋色の邂逅

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Act1、緋色の邂逅

 照りつける太陽が天高く登る乾燥地帯、陽炎立ち昇る中を疾駆するモノがあった。熱砂の回廊を断ち切るかの如く、瞬く間に駆け抜け先を目指す。  動物というにはあまりにも速く、鳥とするには低空を移動するそれは流線型の身体で光を照り返しながら、鳥のさえずりとも羽虫の羽音とも取れる音色を奏でる左右に伸びるやや厚みのある翼を動かし、走っていた。  馬、魚、鳥、虫、竜……様々な答えを否とするそれは、この世界でレイアと呼ばれる乗り物。細長の本体に前部と後部のパーツ、左右対称に翼と呼ばれる増幅器で構成され地上から少し浮いた状態で疾駆している。  オリヴィアスクに存在していたという古代の技術……魔法と機械の融合、魔導機械と呼ばれる技術。それを復元した産物の一つがレイアである。  それまでの馬や牛といった移動や運搬手段に変わるものとして製作と研究が進められ、一般にも浸透したレイア……現在は特にスピードに特化したものを指すようになり、競技が各地で行われる程に人気を博す。  乾燥地帯を疾駆する一台のレイア、それにやや前傾姿勢で前部のグリップ部を握り、跨っている一人のプレイアー……と、駆動音に乱れが起きたかと思うと少しずつ速度が落ち始め、慌てた様子でグリップを捻ったりするもレイアはゆっくり静止してから落下、白い煙を本体からあげ始める。 「うっそでしょ〜……やっぱ昨日のレースで無茶したからかなぁ?」  乗機が停止してしまった事に対してやや明るい声が乾燥地帯に響く。座席から降りて煙が上がってる本体部のパネルを開けようと手を伸ばすも、高温だった為か指先がすぐに飛び退いて修理不能というのを暗に示す。  やや乱暴に本体を蹴ると再び駆動音が鳴り始めるも不協和音気味であり、しかし少しだけ浮上した事から移動させる事は可能になったらしい。  一瞬口元に手を当てて考える仕草をした後、彼女は座っていた座席を持ち上げて雑に押し込んだ物品の中からくしゃくしゃの地図を取り出して広げ、照りつける太陽の下で汗を流しながら現在地を確認する。 「町はすぐそこかぁ……修理費かかるんだろうなぁ……でもま、なんとかなるから大丈夫かなきっと」  ぐるぐると地図を丸めながら座席下の収納スペースに突っ込んで座席を戻し、根拠のない自信にも似た快活さで己の不運を吹き飛ばしてレイアのグリップを握って押しながら町を目指し始めるのだった。
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