白い世界

1/1
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ

白い世界

 目が覚めるとそこは真っ白な世界だった。  雪、とか霧の中にいる、とかそんな生易しい物ではなく、ただ白。それ以外の色はなく、痛いくらいの静寂が僕を包み込んでいた。まるで僕以外のものがすべて消えてしまったようだった。  眼前に広がるのは白の地平線。いや、線なんてものはない。空も地面も一面真っ白だ。夢かと思って頬を抓る……痛い。現実だ。ならここはどこだろう、いつの間にこんな所に? 昨日寝た時は、どこにいたんだっけ?  記憶を探る。何も思い出せない。頭の中まで真っ白だ。親の顔も、恋人の顔も、兄弟の顔も、いたのかどうかもわからない。自分の名前さえ、わからない。わからない。わからない。  僕は不安をかき消すように駆け出した。どこかに誰かがいるはずだ。それか壁。壁があれば、それを辿って出口を探せる。出口なんてあるのかどうかわからないけど、とにかくなんでもいいから自分以外の存在が欲しかった。  しかし、走っても走っても、何もない。人影はもちろん、壁すらも。途中で何度も叫んだが、何かに反響することはなく声は白い世界へ吸い込まれていった。  息が苦しくなってきた頃、足元がもつれて派手にこけた。すぐに立ち上がろうとしても立ち上がれず、仰向けに転がってぜぇ、ぜぇと荒く呼吸をする。自分が思っていたよりも体力を使っていたようだ。  こけて傷つけた腕と足がずくずくと痛む。その痛みが、これは夢じゃないんだと念を押していた。  世界は、僕の知らない間に終わっていたんだ。僕はこの世界で、ひとりぼっちになってしまった。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!