Einfuhlung:いつかは、わたしをいざなう永遠

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「こうするしか無かった。娘の将来を思った」 「死んでちょうだい!世界を敵にまわした男」 見下ろせば白い波が洗うリアス式海岸。人類終局の崖っぷちで雌雄を決する二人がいた。 暗雲が立ち込め、遠雷が大気を震わせる。最終戦争にふさわしい光景だ。 男は正体不明の権威を必要としていた。蔑みは生きる糧だ。でなければ、容赦ない冤罪と怨恨に切り刻まれ、とうに自害している。ゆえに、彼は逆境を苛みの刃に変え、今こうして人類の敵として君臨しているのだ。 もっとも、99億の大半は土に還ったが。 女が広大無辺の慈愛を不要としていた。愛は人を陥れる幻。だからして、絶え間ない賞賛と底なしの包容力を変幻自在の心で手玉に取り、労せずして自由に操る地位に就いた。爛熟した物質文明の象徴がここに居る。 おかげで、残りの1億が命をつないでいる。 何と皮肉な事だろう。人類最後のペアがつがいになる事もなく、己の主義主張を賭けて殺しあう。 雌雄を決するとは、まさにこのこと。 しかし、互いに傷つけあったところで何の意味があるというのだ。相争い、最悪は共にかばねと成り果てたとて、滅びに滅びを重ねて、何が残ると言うのか。 何も遺らない。あるのは、たたただ無だけだ。 その様な説教をひとくさり、男は剣を切り結びながら叫んだ。 舞踏曲の旋律にも似た、あるいは聴覚神経をかきむしる不協和音としか呼べぬ金属音が輪廻転生し、怒号に、妖艶な喘ぎに七変化する。 やがて、怒髪天を突き、大地を焦がす砲撃戦に移った。丸腰に見える二人がどのような武器を帯びているのか定かではない。目にも止まらぬ速さで不規則に位置を変え、残像をキノコ雲が追いかける。繁華街が滅んで出来た汚水湖の輪郭を爆炎が縁どっていく。こうした加工も悠久の時が刻む浸食に比べると無に等しい。 寄せては返す波のように戦いには呼吸と言う物がある。どんなに科学が進歩しようと闘いには終わりが訪れる。 それ以前に、人間の気力が息切れしてしまう。 女がべったりと座り込んだ。 弾む息を聞きつけ、男が歩み寄る。剣には闘志が漲っている。得体の知れぬエネルギーが刃先にまとわりつき、とぐろを巻いている。 だが、彼は殺意を鞘に納め、しわがれ声を掛けた。 「俺達、何をやってるんだろうな?」 「そうね。どうしてこうなったのかしら」
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