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「よう、喜八!お楽しみだったか?」  店から出てきてすぐ、肩を力強い腕で掴まれた。振り返れば、なんだか頬が艶やかになっているような、満足げな笑顔で勘吉は立っていた。 「ん……まあ、そうだな」  勘吉は喜八の意外な答えに目を丸くし、大きな口をあけ、そうかそうか!と背中をバシバシと叩いた。勘吉は自分が無理やり連れてきたという自負があったからから、良かった良かったと大きな声は暗闇に響いた。 それからの帰路は、勘吉の買った女がいかに好みだったか、どんな遊びをしたか。そしてどれほどまでに自分に惚れているか、聞いてもいないのに詳しく話していた。 「お前さんもま見ただろう、あの器量の良さを」 「そうだったかね」 「なんだあ、俺がイイもんとっちまったもんだから、意地張ってんのか?」 「そんなわけないだろう」 興味のないような話も喜八は、右から左へと流して頭の中は朝霧のことを思い出していた。  そうとう昔のことに思えた朝霧のことも、昨日のことのように思い出してくる。朝霧の金平糖を食べる姿そこらへんの街娘に、花魁の着物を今着せたような……寂しげな感じさせない屈託のない笑顔、無邪気な笑顔、天真爛漫で。 「なんてつったって、肌が柔くてよ」 「ああ」 「もうありゃ馴染みになるしかねえなあ」 「そうさね」 『約束……?』  断片的に、頭の中にふと、朝霧の声が流れた。軽くて、高くて、そう、まるで飴玉を硝子にぶつけたような、カロンカロンとなるような。可愛らしく心地よい声だった。その景色は風とともに流れ、どんな話だったか、と思い出そうとするももう頭から抜けていた。もう秋に入りかけた冷たい風が喜八と勘吉の間を勢いよく通り抜けて行く。 「うう、やっぱり夜はさみぃなぁ」 「……はて、なんだったか……」 「なんだあ?」 「……いや、なんでもない」
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