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そうだ、朝霧は金平糖が好きだった。細い指で、可愛らしい色の金平糖をつまんでいた。
『朝霧は本当に金平糖が好きだね』
『色によって味が違うんでありんす』
年の割に幼げな顔をしている朝霧の口には、その顔とは不釣り合いのような、毒々しいくらいの紅が引いてあった。その唇に、白い指でつままれた金平糖が吸い込まれて行く姿は、幼顔で無邪気であるのになぜかとても艶やかに見えたりした。
『ほんとに味が違うのか?全部同じように感じるが』
そうだ、朝霧は繊細な舌は分かるんだと、と得意げに笑うのだ。
それで、桃が好きだと、桃色の金平糖を買って行くと喜び、喜八が食べると、私が食べるのにと少しふてくされる。それが可愛らしく、天真爛漫で、頬が緩んだものだった。心の奥に眠っていた、若い頃の和やかな思い出が、布に湯が染み込むように、じわりと暖かく思い出す。
「……さま……旦那様!」
昔のことを思い出して自然と頬は上がっていた。思い出した朝霧そっくりの顔と、朝霧とは違う少し低い声で現実に呼び戻される。目の前にはクリクリとした瞳が瞬いていた。
「ああ……すまない」
「さ、お茶を……」
「いや今日は帰るよ」
すくりと座布団の上に立ち、夕霧を見下ろす。
「金平糖は好きか?」
「はあ……好きでありんすが……」
見上げる夕霧はきょとんとしている。
「そうか、ならば次、持ってくる。」
店のものが怒るなら、次必ずくると言っていたと言えと、入れてもらったお茶を一気に飲む。夕霧が、ぽかんと口を開けたまま、喜八はどこか揚々とした様子で部屋を出ていったのだった。
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