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「……あいつのホクロの数も、どこがイイかも分かった。どう言やぁ喜ぶのかも分かる」
火皿からは、ジリ、と葉の燻る音がした。客のだとあんなに臭く感じるのに、東雲のふわりと香る煙は東雲の魅力を引き立てるものであった。
「二人の将来誓ってさァ……でも、家の場所すら分かんねえや」
バカみてえだな、と微笑んで、また煙管を吸う。東雲はぎこちなくも笑顔であったが、キラリと光る煙管が、代わりに泣いているように見えた。
「東雲」
「なんだい」
そう夕霧に目をやると、いつもの可愛らしい夕霧とは違い月夜に、照らされる夕霧の顔はどこか男らしいものであった。
夕霧の黒目に、星が煌く。
「成功させる。大丈夫」
そんな夕霧に、すこし頬を赤らめる東雲であったがそんな姿を見せるわけにはいかないと、そっぽを向いた。
「成功させなきゃ死ぬんだ。当たり前だ」
そうぶっきらぼうにいうと、朝霧は、死にたくないからねと笑った。
「……ずるいことをしちまった。朝霧と一緒に見られたくないといいながら、説得に朝霧の名をだしちまった」
情けない、と夕霧は俯く。その感情は、本当に情けなさからか、朝霧には叶わないという悔しさからか。
「なぁに……遊女なら、“客”に、手練手管を使うのは当たり前さ」
そうだろう、と東雲はあっけらかんと言った。金平糖の旦那、ではなく、客に、と強調させたのは、東雲の優しさだった。ここ、遊郭にある気持ちを切り離させるような言葉は、一見きついようであったが、夕霧に纏わりつく紐を切るような、気持ちのいい言葉だった。
月夜に照らされ、煙の中に二人。
「……そうだな」
まるで、空の雲の中のようだと、二人、目に星をきらめかせながら、穏やかに微笑むのであった。
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