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「夕霧、旦那さんがきてくれたぞ」  そう障子を開けた向こうには、喜八がきまずそうに立っていた。眉を垂らし、にこりと笑う。 「旦那様」  いいかい、といつも通り座布団に座った。あのような相談をした後なので、夕霧もしゃんと背筋が伸びる。喜八のその結ばれた口から「店のものに言う」などでて来るのではないかと、夕霧にとって少しの沈黙が、どれ程長く感じただろうか。外の喧騒が騒がしかった。 「……お茶でも」 「夕霧」  喜八のくちから、名前が出る。その音にばかりとしながらも、覚悟を決めたんだというように、落ち着いた目で喜八を見た。喜八は、そんな鋭い目に、困ったように眉を垂らした。 「聞いてくれるか」  喜八は、落ち着いた声で話し始める。それは、朝霧との最後の日のことであった。
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