夜明け

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   音もなく、東雲の部屋の障子が開く。東雲もまた、寝付いていなかったため、夕霧だと気づくと上半身を起こした。まだくらい部屋の中で、東雲に梅鼠色の着物が投げつけられる。何かおかしい夕霧を、少し暗闇に慣れた目で見つめる 「……夕霧?!」  東雲は目を見開き、夕霧を見つめた。 「声出さないで。早く、着替えて。」  東雲は、口をぽかんと開けながら、こくりと頷く。布ずれの音も出さぬよう、梅鼠色の着物を着た東雲は、少し気の強い町娘のような風貌になった。 「東雲」 「……夕霧」  夕霧が伸ばした手を、東雲が取る。  まだ夜の明けきっていない、夕霧の着物のような濃紺に、東雲の肌の色を少し混ぜたような空の下。裏口から二人は出る。  吸い込む空気は、胸にあった慄く気持ちを流していってくれた。じゃり、と草履で踏む土の感覚は久し振りのような気もした。気は抜いてはいけないと、冷たい空気を肺いっぱいに吸う。  ホウ、と白い息を吐き、二人手を繋ぎながら走っていった。
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