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翌日、身体に気を使いながら、ゆっくり身を起こすと、一階へ降りた。
壁に寄りかかって座り、ぼんやりと考え事をしていた。
精神的に人間を壊すというのは、殺すよりも質が悪い。何度か人の心を壊してきた霊斬だったが、恒の壊れっぷりは恐ろしかった。無防備の人間を傷つけることに罪悪のひとつも感じない。人を傷つけ苦しませることを楽しいと感じてしまう。恒のあの表情……恐ろしくて霊斬の脳裏に焼きついている。
「あんなふうには、なりたくないな」
霊斬はぼそっと言った。
――依頼人のためというのは聞こえがいい。しかし、この擦り切れそうになる感覚はなんだ? 今さら、心が痛んでいるのか? だが、この感覚、いつもあったように思う。
霊斬は難しい顔をして、考えた。
それから数日後、まだ傷の癒えない霊斬の許に、依頼人が訪れた。
「それで恒伊助はどうなりましたか?」
奥の部屋へ通すなり、依頼人が口を開いた。
「精神的に壊しておきました」
霊斬は硬い声で告げた。
「怪我をしたのですか?」
着物の間から覗く晒し木綿を見た依頼人が、そう問うた。
「ええ、まあ。いつものことですから、ご心配なく」
「では、お礼を」
依頼人はそう言って、小判十五両を差し出した。
「ありがとうございます」
霊斬はそう言い、袖に小判を仕舞った。
「またなにかありましたら、お越しください」
霊斬は深々と頭を下げた。
翌日、休業している霊斬の許を、千砂が訪れた。
「邪魔するよ」
「今日はどうした?」
「様子を見にきたんだよ」
霊斬は苦笑した。
「大人しく休業しているからいいだろう?」
「まあね。依頼はきていないかい?」
「ああ」
霊斬はうなずく。
「なら、良かった」
千砂は胸を撫で下ろし、尋ねた。
「怪我の方はどうだい?」
「だいぶ良くなった。熱も引いた」
「そりゃあ、良かった。無茶するんじゃないよ」
「分かっている」
霊斬は彼女の忠告に、苦笑して答えた。
「そうかい、あたしはこれで」
「またな」
霊斬は軽く右手を振った。
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