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「あたしはICPO(国際刑事警察機構)のルービック朱里。あんたを捕えに来た。あんたは国際手配されている。殺人の容疑でね」
「所長はどうした」
「既に我々のメンバーが捕えて尋問中だ」
「そうかい、じゃ知っているだろうな。我々の目的」
「味覚刺激剤を完璧なものにすることだろ」
「味覚を検知するのは味覚細胞だが、検知した味覚の甘味、酸味、塩味、苦味、うま味、この五大要素を総合的に判断して料理の味を記憶するのは脳。そして、その味の良し悪しの組み合わせを一番知っているのは美食家達の脳。世界中の高価な食材が不足し、その食材を使った料理を作ることさえ出来なくなった今日、例えAIを使っても多彩な料理を堪能できる味覚刺激剤を作ることは困難だ。必要なのはその情報、つまりはデータ、つまりは記憶している脳だ」
「そのために人の命を奪うことが本当に必要なわけ。脳に記憶された情報のみをコピーすれば済むことじゃないのか」
「人の記録は脳内のシナプス網に蓄積されている。その数は150兆。残念ながらその記憶回路は正確に解明されていない。記憶を取り出すには脳そのものを取り出すしかない」
「でも、どうして、美食とは無縁の雑誌記者の山本の脳まで奪う必要があったんだ」
「味覚刺激剤の対比実験用に必要だからだ。美食家であっても知らない味覚に出会った時に不快感を与えては商売に差し支える。そのために美食とは無縁の脳でのテストが必要だからだ」
「商売、商売って言ったって、潤うのは一部の富裕層だけだろ、貧乏人は美味以前にまともな食物を手に入れるのも難しいご時世じゃない」
「まさしく、でも、経済競争で劣勢に立たされているこの国を救うには新たな産業の種、味覚刺激剤は必要だ。オレはこの国の・・・に頼まれて・・・」
プシュー、そんな音が聞こえたような気がした。
「おしゃべりが過ぎたようだ」
そう言うと男はガックリと首を垂れた。
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