71人が本棚に入れています
本棚に追加
4.レストラン東方見聞録
厨房内は手が主役だが、客席は口が主役。それでもレストラン東方見聞録の客席では、手と同様に口を動かすことも忘れない。
「オーナー、いくらなんでもボッタクリじゃないですか。合成肉の味しかしないじゃないですか」
朝倉一馬(あさくらかずま)は先輩ウエイターの新浜敏(にいはまとし)に責付いた。
「は、はーん。お前、さてはつまみ食いしたな」
「す、すいません」
「じゃあ、これ飲んでみな」
「うま〜い、何、これ」
「料理の味は料理人が決めるんじゃなくて、料理を口にする客の味覚細胞が決める。これは味覚刺激剤だ。脳に直接作用して味覚を伝える。料理はなんだっていい。習慣性を高めるため、隠し味に覚醒剤も使ってある」
「残念だね。今の会話は録音した。直ぐに警察が来る。詐欺罪で逮捕だ」
「なるほどね、君が潜入捜査官ってわけか」
「高級料理店の看板上げているのだから、高級食材使えばいいじゃないか」
「おめえ、天然モノって食ったことあるか・・・」
「オレは金ねえからな・・・」
「世界的人口爆発で食材不足だ。今や金があってもこの国では手に入らねえ、でも、皆うまいものを食いたがる。需要があるから供給する。これは単なるビジネスだよ。カズ、正義感も持ち出すのもいいが、正義感じゃ飯は食えないぜ。知っているのだぜ、お前、多額の借金背負っているのだって、な」
「なんで、トシがそんなこと知っているのだ」
「それで、姉ちゃんがヤバイ仕事で稼いでいるらしいじゃないかい」
「こいつ、オレはお前らを許せねえ、お前もまとめてぶち込んでやる」
最初のコメントを投稿しよう!