3人が本棚に入れています
本棚に追加
「ここどこ?」
「さあ、どこでしょう」
「なにが起きたのかしら」
「あなた様は死にました」
「……ああ、覚えてるわ」
「それは良かった」
「そしてあなたは?」
「さあ、誰でしょう」
「もしかして、死神?」
「そうかもしれません」
「天使?」
「そうかもしれません」
「悪魔だったりして」
「そうかもしれませんね」
「張り合いがないわね」
「なくていいでしょう、死んだのだから」
「それもそうね」
「ここに留まるのですか?」
「分からないわよ、あなたが道案内してくれるんじゃないの?」
「それではつまらないでしょう。あなたの足で散策してみては?」
「そんなこと言ったって、一面真っ白でなにも分からないわ」
「見えないだけで、あるかもしれませんよ」
「なにその怪しげなヒント」
「楽しいでしょう?」
「別に楽しくないわよ」
「さあさあ、はやくはやく」
「もうなによ、天国でも地獄でも連れてってくれたらいいじゃない……きゃっ!」
「なにか踏みました?」
「でも、なにも見えないわ」
「拾ってみては?」
「なにも見えないのに」
「さあさあ、はやくはやく」
「なんなの……うわっ!虫!」
「おや、虫でしたか」
「もう、気持ち悪い!」
「まあまあ、そういうこともあります」
「どういうことよ」
「さあ、また手探りで」
「もうあんな気持ち悪いのは嫌よ」
「私が出しているわけじゃないので、そこはなんとも」
「もう……わっ!ナイフ?!こっちは針!」
「怪我にはお気をつけて」
「素敵なところだと思ったのに、怖いものだらけじゃない!」
「案外、人生なんてそんなもんですよ」
「ああ、嫌な人生。いいことなんて一つもなかったわ」
「もっと探せば、素敵なものが見つかるかもしれませんよ?」
「もう、うんざりよ。死神なら知ってるでしょう?私の死んだ理由くらい」
「さあ、死神ではないもので」
「あら、死神じゃないの?」
「ええ」
「まあいいわ。口を塞がれて、窒息死じゃないかしら」
「それはそれは」
「最悪だったのよ。ママが再婚してから」
「ほう」
「相手の父親は暴力、体を触るのは日常茶飯事で連れ子の男も殴る蹴る」
「おやおや」
「いつもどおり、ベットにごそごそとアイツがきて。気持ち悪いったら」
「それはそれは」
「声を出すなと口を塞がれたわ。声を出す気なんてさらさらないのに……」
「何故?」
「何故って……抵抗しても勝てないのはもう学んだのよ。鳩尾を殴られる苦しさを私は知ってる」
「お母様に助けてもらえないのですか?」
「……ママは知ってんじゃないかしら、でもあのクズが医者だったから別れたくなかったんじゃない」
「そういうものですかね」
「……そういうものなのね、私も分からない」
「あいにく私も分かりかねます」
「……そうそう、その時に意識が途切れたから、窒息死じゃないかしら」
「いかにも、あの時です」
「あら、やっぱり知ってるじゃない」
「ご自身で話すことが大事ですので」
「そういうもんかしら」
「ええ、そういうものです」
「……つまらない人生だったわ」
「これからもあるでしょう」
「死んだんだからないでしょ」
「そうでした」
「でも、ここは殴られた痣も痛みも、なにもないのはいいわね。こんな綺麗な自分の腕、みるの久しぶりよ」
「それはよかった」
「飲み物でも出してくれないの?」
「喫茶店ではないもので」
「もっとお話ししたいのに」
「そんな時間はないですよ、ほら、探し物の時間です」
「私、探し物なんて……」
「さあさあ、はやくはやく」
「もう怖いのは嫌よ……わ、またなんか当たった」
「なんでしょう」
「教科書?高校のね」
「幾分か難しそうで」
「中身は落書きだらけよ。死ねだのビッチだの、中身のない言葉の羅列ばかり」
「おや」
「こんなのして、何が楽しいのかしらね」
「この位の人間は、自分が上に立つことによる優越感より、人を下に堕とし見下すのが好きですからね」
「……自分より格下の存在は安心に繋がるもの」
「嫌な生き物です」
「これは……ぬいぐるみだわ!中学生の時に流行ったの。懐かしいわ」
「可愛らしい」
「UFOキャッチャーでとったのよ、一発で取れたかしら。昨日のように思い出せるわ」
「嬉しそうで何より」
「ふふ、楽しくなってきたわね」
「それは良かった」
「あ!また当たった」
「このあたりはたくさん出てきますね」
「これは……指輪だわ」
「おもちゃの指輪ですね、青色が綺麗だ」
「綺麗、ほら、こうやって光に通すと……」
「ほんとうだ」
「……私、ここでずうっとこれを見てるわ」
「おや、他の所に行かなくていいんですか?」
「ええ、ここがいい、これがいいわ。……なんて綺麗なんでしょう、白に映える青色」
「お気に召すものを見つけたなら何より。それに飽きたら、また参りましょう」
「そうするわ……」
最初のコメントを投稿しよう!