天使は微笑む

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「ここどこ?」 「さあ、どこでしょう」 「なにが起きたのかしら」 「あなた様は死にました」 「……ああ、覚えてるわ」 「それは良かった」 「そしてあなたは?」 「さあ、誰でしょう」 「もしかして、死神?」 「そうかもしれません」 「天使?」 「そうかもしれません」 「悪魔だったりして」 「そうかもしれませんね」 「張り合いがないわね」 「なくていいでしょう、死んだのだから」 「それもそうね」 「ここに留まるのですか?」 「分からないわよ、あなたが道案内してくれるんじゃないの?」 「それではつまらないでしょう。あなたの足で散策してみては?」 「そんなこと言ったって、一面真っ白でなにも分からないわ」 「見えないだけで、あるかもしれませんよ」 「なにその怪しげなヒント」 「楽しいでしょう?」 「別に楽しくないわよ」 「さあさあ、はやくはやく」 「もうなによ、天国でも地獄でも連れてってくれたらいいじゃない……きゃっ!」 「なにか踏みました?」 「でも、なにも見えないわ」 「拾ってみては?」 「なにも見えないのに」 「さあさあ、はやくはやく」 「なんなの……うわっ!虫!」 「おや、虫でしたか」 「もう、気持ち悪い!」 「まあまあ、そういうこともあります」 「どういうことよ」 「さあ、また手探りで」 「もうあんな気持ち悪いのは嫌よ」 「私が出しているわけじゃないので、そこはなんとも」 「もう……わっ!ナイフ?!こっちは針!」 「怪我にはお気をつけて」 「素敵なところだと思ったのに、怖いものだらけじゃない!」 「案外、人生なんてそんなもんですよ」 「ああ、嫌な人生。いいことなんて一つもなかったわ」 「もっと探せば、素敵なものが見つかるかもしれませんよ?」 「もう、うんざりよ。死神なら知ってるでしょう?私の死んだ理由くらい」 「さあ、死神ではないもので」 「あら、死神じゃないの?」 「ええ」 「まあいいわ。口を塞がれて、窒息死じゃないかしら」 「それはそれは」 「最悪だったのよ。ママが再婚してから」 「ほう」 「相手の父親は暴力、体を触るのは日常茶飯事で連れ子の男も殴る蹴る」 「おやおや」 「いつもどおり、ベットにごそごそとアイツがきて。気持ち悪いったら」 「それはそれは」 「声を出すなと口を塞がれたわ。声を出す気なんてさらさらないのに……」 「何故?」 「何故って……抵抗しても勝てないのはもう学んだのよ。鳩尾を殴られる苦しさを私は知ってる」 「お母様に助けてもらえないのですか?」 「……ママは知ってんじゃないかしら、でもあのクズが医者だったから別れたくなかったんじゃない」 「そういうものですかね」 「……そういうものなのね、私も分からない」 「あいにく私も分かりかねます」 「……そうそう、その時に意識が途切れたから、窒息死じゃないかしら」 「いかにも、あの時です」 「あら、やっぱり知ってるじゃない」 「ご自身で話すことが大事ですので」 「そういうもんかしら」 「ええ、そういうものです」 「……つまらない人生だったわ」 「これからもあるでしょう」 「死んだんだからないでしょ」 「そうでした」 「でも、ここは殴られた痣も痛みも、なにもないのはいいわね。こんな綺麗な自分の腕、みるの久しぶりよ」 「それはよかった」 「飲み物でも出してくれないの?」 「喫茶店ではないもので」 「もっとお話ししたいのに」 「そんな時間はないですよ、ほら、探し物の時間です」 「私、探し物なんて……」 「さあさあ、はやくはやく」 「もう怖いのは嫌よ……わ、またなんか当たった」 「なんでしょう」 「教科書?高校のね」 「幾分か難しそうで」 「中身は落書きだらけよ。死ねだのビッチだの、中身のない言葉の羅列ばかり」 「おや」 「こんなのして、何が楽しいのかしらね」 「この位の人間は、自分が上に立つことによる優越感より、人を下に堕とし見下すのが好きですからね」 「……自分より格下の存在は安心に繋がるもの」 「嫌な生き物です」 「これは……ぬいぐるみだわ!中学生の時に流行ったの。懐かしいわ」 「可愛らしい」 「UFOキャッチャーでとったのよ、一発で取れたかしら。昨日のように思い出せるわ」 「嬉しそうで何より」 「ふふ、楽しくなってきたわね」 「それは良かった」 「あ!また当たった」 「このあたりはたくさん出てきますね」 「これは……指輪だわ」 「おもちゃの指輪ですね、青色が綺麗だ」 「綺麗、ほら、こうやって光に通すと……」 「ほんとうだ」 「……私、ここでずうっとこれを見てるわ」 「おや、他の所に行かなくていいんですか?」 「ええ、ここがいい、これがいいわ。……なんて綺麗なんでしょう、白に映える青色」 「お気に召すものを見つけたなら何より。それに飽きたら、また参りましょう」 「そうするわ……」
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