幸せのカタチ

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「左から10点、13点、2点、11点、9点……はは、10点以下が何人も……ここは地獄かよ」  三島彰人(あきと)は特殊な装置の埋め込まれた眼鏡を外しながらひとりごちた。  彰人は昼下がりの公園のベンチに深く腰掛け、煙草をふかしながら天を見上げた。これ以上、点数の低い者達を見ていたらこっちまで気分が落ち込んでしまう。  都心の公園はサラリーマンやOL達で溢れかえっていた。明るい顔をしている者はひとりもいない。  コンビニや弁当屋で買った味気ない冷めた食事を昼休みという制限時間内に胃袋へとかき込み、夜遅くまで働き、自分の時間など持つこともできずに、朝早く出勤し、食事を飲み、働いて働いて働いて……――。その繰り返し、働くことが目標、働いた先に何があるかなんて誰も見ていない。社会に出る前には確かに抱いていたはずの夢や希望も今や現実に毒され、黒ずんで汚されて心の奥底へとしまいこまれている。 「はあ、点数が低いわけだよな」  みんな、麻痺している。口からため息とともに煙草の煙を吐き出す。すると、近くを歩いていた女性が声を荒げた。 「ちょっと、アンタ、煙草の煙、こっちに飛ばさないで」 「あ、すいません。え、でもここ、喫煙スペース……」 「うるさいわね。公害なのよ! 今は人が多い時間なんだから少し考えなさい!」 「……すみません」  慌てて、煙草の火を消し、灰皿へと煙草を捨てる。 「余裕、ないなあ……」  彰人は先程外した眼鏡をかけ、立ち去っていく女性を見る。 「幸福値5……。そりゃ、余裕もなくなるか」  彰人がこの職に就いてから5年が経った。  昼下がりの公園でだらだらとしているようにも見えるが、これが彰人の仕事だった。しかも、公務員だ。  幸福度調査員――それが彰人の肩書だ。
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