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十二のルタ その一
はじめて密林の中に寺の廃墟を見つけたのは、織物の名手だった母親を亡くして稼ぎが減り、蓄えが底を尽きはじめた、十二のときのことだ。
北の山裾の森の奥深く、古い時代の寺があり、宝が眠るという話は、ルタの暮らす村やその近隣の者なら皆知っていたが、探そうとする者はいなかった―寺の姿を見た者は呪いを受け、昼も夜も悪夢にとり憑かれて気が狂うという、いわくつきゆえに。けれどもルタはひとり、ひそかに森に分け入った。五つ離れた、心の臓の弱い妹のための薬代が、どうしても必要だったのだ。
それに、呪いだのまじないだのと大人たちがやたら騒ぐのを、ルタはいつからか苦々しく思うようにもなっていた。いかめしい顔で謝礼ばかり要求して、小さな妹の病ひとつ治せないまじないがなんだ。いつも先祖の墓を清めて花を捧げていた母が早死にし、夜ごと酒を飲んでは暴れてその墓に小便をかけたこともある父はまだ生きている。死者の呪いも先祖の加護もあるものか。そんなものは糞をかぶって肥溜めの中で眠っているがいい、とさえ思っていた。
宝の眠る寺を探して、夜明け前にこっそりと村を抜け出して森を歩き回り、日が昇り切る前に何食わぬ顔で村に戻る日々だった。日中には、木登りの得意なルタにはココヤシとりの仕事があった。働かない父にかわって共同水田の仕事にも出たし、庭の菜園も手入れしておかなくてはならない。暁のわずかな時間に森へ走り、目印の紐を枝に結わえながら、こつこつと探し続けた。
探し始めて数日、ルタの脛ほどの高さの小さな石像に気がついた。石像はあちこちに点在していた。泥と苔に埋もれて、一見、天然の岩と見分けがつかないが、目を凝らせば渦に似た細密な紋様がびっしりと刻まれている。翼のある獣のような姿で、両肢をそろえ、口を真一文字に結んで正面を見据えている。日々少しずつ森の奥へと分け入りながら、いくつも石像を見つけるうち、やがて石像がどれも同じ方角を向いていることに気がついた―北西。
水田と畑の仕事がめっきり少なくなった乾季のある日、ルタは決意を固めて家を出た。自分の勘を信じて、北西へ。宝の眠る寺を見つけるまで、何日でも帰らないつもりだった。
出かける前の晩、明日からしばらく町に行って日雇いの仕事をしてくる、とルタが伝えると、父は特段あやしまないどころか、がんばれよ、などと酒で回らぬ呂律でルタを激励した。そのころには、心の臓が弱い妹のアーシャはとなり村の伯母の一家に頼み込んで預かってもらい、ルタは父と二人の生活になっていた。アーシャはいったん寝込むとつききりでの看病が必要だったし、母の死後、父はますます酒が深くなり、働きもせずに家にいてアーシャにまで手をあげるようになっていたためだった。女の子がほしかった、と昔から言っていた伯母は、ふたつ返事でアーシャの世話を引き受けてくれた。妹の心配をせずに家を空けることができるのは、ルタにとっては何よりありがたいことだった。
村の大人たちにしても、大地が渇き野良仕事の手がすく乾季に入って、婚礼や祭りの準備に、あるいは仲間との賭け事にとそれぞれ忙しく、飲んだくれ親父のせがれの動きになど、たいして関心を払う者はいなかった。
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