盲姫ムスカリ

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盲姫ムスカリ

貴族の娘であるムスカリは、まだ14歳になったばかりの少女である。 飴細工でできたビスクドールの様に、繊細で、甘やかな香りのする、美しい少女だ。 そして、その容姿の代償だろうか。 ムスカリは生まれつき、目が見えなかった。 遠い昔の話だ。 神は罪人に罰を与えた。 罪人が死に、生まれ変わる際に、体の一部を奪ってから下界へ放った。 時に足を。 時に腕を。 時に耳を。 そして、時に、瞳を。 神は罪人から奪いとった。 体に欠損を持って生まれるのは、神に体を奪われた罪人であるからである。 などと、巷では言われている。根拠など全くない与太話である。 しかし、貴族社会では、その与太話が広く信じられている。 歴史や権威の影響が強いほど、迷信とは深く根付いているものである。 そのため、貴族は、子供が身体的な障害を持っていた場合、その存在を隠す。 他家にこっそり養子にだす。 軟禁して一生館から出さない。 殺す。 そういった手段をとる。 貴族にとって体裁というのは、親子の情よりも重視されるものだ。 だが、ムスカリの父親は違った。 彼は、公明正大であり、正義感の男だった。 そして、慣習よりも論理を重視する男だった。 体裁よりも、親子の情を重視する男でもあった。 身体障害が、神からの罰だなどと言う非論理的な話を、ムスカリの父親は信じなかった。 だから、愛する娘の目が見えないからといって、隠すようなことをしなかった。 彼は良い父親であった。 しかし、彼の行動が、ムスカリにとって良い結果をもたらしたかは別である。 社交界において、ムスカリは、その優れた容姿によって、注目を浴びた。 同時に、瞳を神に奪われた罪人として、あざ笑われた。 盲姫(めくらひめ) 嘲笑と侮蔑を込めて、周囲の人間はムスカリのことを陰でそう呼んだ。
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