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幸福のための嘘
「ねえ、ナズナ。今日は何の話をしてくれるの?」
ムスカリがそう尋ねると、ナズナは、ボソボソと口を開く。
「今日は、海の話をしよう。海と言うのは」
ナズナは、ムスカリに自分は旅人だと名乗っている。
透明な体を利用して、他人の家の食べ物を拝借しながら旅をしているのだと。
ムスカリは、当然そんな話は信じていない。
食べ物を拝借するためだけに、貴族の屋敷に忍び込む人間などいるはずがない。
高等な魔術師(例えば、ムスカリの父の護衛がそうだ)なら、姿が見えないことなどなんの障害にもならない。
事実、ナズナは決してムスカリの父親の前には姿を現さない。
見つかれば、殺されるからだ。
貴族の屋敷に忍び込むというのは、見つかっただけで、殺されても何をされても仕方がないということを意味する。
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