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会いたくて
ムスカリは、目が見えないこともあり、部屋にこもることが多かった。
けれど、ナズナと出会ってから、屋敷の中を歩き回ることが増えた。
傍仕えの随伴が必要となるので、ムスカリの傍仕えは、露骨に嫌な顔をした。
ムスカリには、見えないと思っているのだ。
ムスカリは、それを無視して一見すると無目的に屋敷の中や庭を歩き回った。
そして、何もない廊下の隅や、虚空を楽しそうに見ている。
屋敷の人間は、そんなムスカリを嘲笑した。
「盲姫がついにぼけて徘徊し始めた」
「盲姫は神に瞳だけでなく、知能まで奪われた」
「盲姫は気狂いになった。罪人にはお似合いの末路だ」
ムスカリにも、それらの噂話は聞こえていた。
なにしろ、ムスカリは、目が見えない代わりに、耳がいい。
透明人間を見つけられるくらいに、神経が敏感なのだ。
普通の人に聞こえる以上に、彼らの陰口は、ムスカリの耳に入ってきた。
けれど、ムスカリはそういったことを気にしなかった。
それよりも、屋敷の中で諜報活動をしているナズナを見つけることに熱中していた。
部屋の隅で、透明な体で隠れているナズナを見つける。
ナズナの方もムスカリを見つけて、喜んでいるのが伝わってくる。
ムスカリもつい顔がほころぶ。
それを見て、周りの人間は気味の悪そうな顔をする。
今のムスカリには、そういった周りの人間の態度さえも、喜びの対象だった。
目の見えているはずの彼等には、そこにいるナズナを見つけることはできない。
そして、目の見えない自分だけがナズナを見つけられる。
それは、人を寄せ付けない気難しい野良猫を、撫でる時のような優越感だった。
ムスカリは、父親と出会うことを嫌うようになった。
父親の護衛がいる前では、ナズナが姿を見せないからだ。
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