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とある休日の遅い朝
「何だ、これ?」
タカシが寝ぼけ眼で台所に来ると、テーブルの上にクシャクシャに丸められた紙があった。広げてみると、文字が書かれていた。
「目が覚めたら白?」
何かこぼしたものか、 後の文字は、滲んでいて読めなかった。
いったい何のことだ。俺宛てのメッセージか?ぼんやりとした頭で、あれこれと考えて、はたと思い当たった。白井、そう白井だ。あいつからマンガ、半年くらい借りっぱなしだったっけ。連絡しろってことか?タカシは慌てて返しに向かった。
「何これ?」
ハナコが目をこすりながら、台所に来ると、テーブルの上にしわしわの紙があった。何か文字が書かれている。
「目が覚めたら白、って?」
後の字は濡れていて読めない。
白ねぇ……しまった。ハナコは大事なことを思い出した。昨日、飲み会に着ていった白のニットにビールこぼしちゃったんだっけ。取りあえず、ふき取りはしたけど、あの後、帰ってそのまま寝ちゃったんだった。
「やだ、大丈夫かな。」
ハナコは慌てて洗面所に向かった。
「おや、何なんだ、これは?」
トオルがあくびをしながら起きてくると、台所のテーブルにメモがあった。
よれよれの紙に書かれた言葉は白の後が、ぼやけて読めない。
「目が覚めたら白、だと?」
白、白、何だったか、妙に引っかかる。そうだ、トオルは思い出した。白と言えば障子。障子の貼り替えを頼まれていたんだ。
「いけない、いけない、忘れるところだった。」
まずは、障子紙と糊が要るな。トオルはホームセンターに出かけることにした。
「おい、何だと。」
マサキはメモを見て真っ青になった。起き抜けに台所に来て、テーブルの上にあった紙片を何の気なしに手に取ってみれば、この有り様だ。
「目が覚めたら白、しろ?」
そこから先が読めないのは、わざとに違いない。背に冷や汗が流れた。督促状だ。あいつだ。いつ来たんだ。ここには来ないって約束だったのに。期限はまだ数日あるが、まだ払う算段がつかない。
「どうする。」
マサキはしばらく腕組みをして考えた末、友人たちを訪ねることにした。何とかかき集めて、しろがね信用金庫の奴の口座に振り込もう。
「これは……」
カズヤは台所のテーブルにそのメモを発見した。ぼんやりしていた頭が一気に冴えてしまった。いったい誰だ。家族に仲間のことはバレていないはずだ。
「目が覚めたら白……」
後の文字は水でかき消してある。落ち着いて考えろ、これはきっと指令だ。台所の窓が開いているから、そこから投げ込んだのだろう。しかし、何と不用心でいい加減な。いや、敢えてこういうやり方の方が怪しまれないのかもしれない。おそらく、白とは「白き矢」のことだろう。彼と連絡を取れと言うことか。カズヤは大急ぎで出て行った。
「ふうん。」
寝起きに何か飲もうと、台所に来たミチルはしわくちゃのメモを見つけた。
「目が覚めたら白、か。」
ミチルは続きの消してあるメモを、ひとしきり眺めると、四角く畳んでテーブルに戻した。
「OK 次のターゲットはミスター・ホワイトウッドの方ね。」
ニヤリと笑うとオレンジジュースを飲み干して、台所を後にした。
「ただいま。」
サチコが買い物から戻って来た。台所に入ると、エコバッグをよいしょ、とテーブルに置いて、メモに気づいた。
「やだ、捨てるの忘れてた。」
買い物に出かける前に書いたものだった。書き間違えたうえ、濡らしてぼやけてしまったので、捨てたつもりだったのだけれど、忘れていたらしい。
案の定、冷蔵庫を開けると、お隣に渡すお土産のお菓子が入ったままだった。誰か気づいてくれているかと期待したが、やはり、外に貼っておくべきだった。
「しょうがない、自分で行くか。」
サチコはお菓子からメモを外した。それには、「目が覚めたら臼田さんに持って行って」と書かれていた。
(了)
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