悪人たちの生き方

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「よし、動けるようになったし明日の食いもんでも取りに行くか」  俺はのんびりと立ち上がって伸びをする。  夜は悪人がうろつく時間だ。しかも、飢えて死にかけている貧民に見せつけるかのように食いもんを持ち歩く馬鹿ばかり。貧民から強奪した金でできたそれを俺が取り返すわけだ。 「あー」 「どうした?お前も食いもん奪いにいくか?」 「むぅ……」 「あー、いけないことだって言いてぇのか?仕方ねぇだろ、そうでもしねぇと生きていけねぇんだから。俺だって悪い事だってのは分かってる」  俺は毛先が傷んだ少女の髪をぐしゃぐしゃと撫でる。微かに甘いシャンプーの香りがした。 「いいか、スピカ。この街には二種類の悪人が居る。一つは、悪人というレッテルを貼られていない、いかにも善人の顔をした上流階級の奴等。もう一つは、生きるために仕方なく悪人を演じてる奴だ」 「むー?」 「上流階級の奴等は、俺らみたいな悪人を排除することで正義を気取っている。俺らを消せば、街が平和になるとでも思ってやがるらしい。俺らみたいな奴等が生まれたのは、正義を気取った上流階級(あくにん)のせいなのによ。俺たちはただ、生きているだけなのに。でも、俺たちが生きるためにしていることは、向こうからしたら悪だもんな」 「……ん」 「……結局、この世界には悪人しかいねぇのかもな」  まだ出会ったばかりの少女に愚痴を零す。日々募る鬱憤をこの少女にぶつけるのはお門違いだと分かってはいるが、この世界に迷い込んできた以上、愚痴のついでにこの世界のことを教えてやらねばならない。 「この世界が嫌なら死ぬ気で逃げ出すしかねぇよ。だが俺は、それが負けるみたいで嫌だ。だから、この世界で自分の心のままに生きる。それが俺が決めた生き方だからだ」  路地裏を抜け出し、静かな青が満ちる夜の街へと向かいながら、自身へと言い聞かせるように呟く。そうすれば、雛鳥のように着いてくるスピカが俺のボロい衣服の裾を引っ張った。 「なんだ」 「あー、ああ!」 「何言いたいかわかんねぇよ」  俺の服を引っ張って何かを必死に訴えている。苛立ったように言えば、スピカは俺の顔を指してまた喚く。 「俺がどうかしたか」 「あ!あ、え!」  俺とスピカを交互に指さし、必死に口を動かしている。読心術は使えないが、しばらく思考を巡らせてようやく何が言いたのか察した。 「名前?」 「う!」 「正解か?……そういや、名乗ってなかったな。俺はラルク。まぁ、適当に覚えとけ」  名前というか、どこかのチラシで見た単語なんだけどな。そう付け加えて俺が歩き出せば、スピカはこの場に似合わず太陽みたいな笑顔を浮かべて無邪気に俺の手を取った。
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