[2] DECISION

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[2] DECISION

「それはすでに決まったことだ。今更ってやつだろ」 タバコのメンソールの香りが部屋を包む。白髪の青年は、スーツを着込んでおり、年似合わない立派な椅子に腰かけている。 そして、この場には、彼以外に4人の男がいる。この男たちは、この国を動かしている主要人物だ。 「四葉様。そこを...」 その瞬間、白髪の青年は机から銃を取りだし目の前の発言をした男の足を撃った。 「うっ...」 「カーペットは汚さないでくれよ」 足を引きずり部屋を出ていく男をよそに青年は続けた。 「聞いてくれよ。昨日魔法少女の再教育機関を見てきたんだ」 「いかがでしたか?」 「髪まで黒く染めて、事実を知らない青年のふりをするのは愉快だ。葉波があそこまで肝が据わっているのはある意味怖いがなぁ」 *** 魔法少女たちは専用の寮に住んでいる。学校も、グループに分かれた魔法少女たちに合わせて授業が行われる。男子も学校にはいるが、時間帯によっては女子校のようだ。 私が所属するグループは、私を含めて20人。 元々は、34人だったが14人は犠牲になった。 そして、異質な私と仲良くする変わり者などおらず今日も私は一人でいる。 「眠い...zzz」 洗面台で顔を洗っていると、隣の部屋からは仲のよさそうな声が朝(夜)から響く。 「別にスクランブルエッグでも、目玉焼きでもいいでしょ」 くだらない。実にくだらない会話が聞こえてくる。 ーハムエッグ ーバケットハーフサイズ ー紅茶 起きたから朝食...というわけではない。今の時刻は24時30分。深夜だ。 魔法少女は睡眠時間が6時間であること以外は決まった生活時間はない。 魔獣が出れば戦い、そうでなければタスクで管理された単位制の授業を受ける。それだけなのだ。 今日は、3つの授業を受ける。 確か、情報処理と簿記、工業電子だったかな。 *** 「おはよう凪葉」 「おはよう」 魔法少女である私が、唯一といっていいほどの会話相手。葉波みなと。 魔法少女を管理する機関にいる彼も高校生だ。魔法少女とは違いシフト制であるが、深夜に一緒になることがなぜか多い。 「また、眠そうにしてるなぁ」 「疲れたの。魔法少女が減っていくのに補填がされないから動く時間が増えて」 廊下を歩くが、外は真っ暗。なんか、不思議な気分だ。 ー凛よ。 何もしないで見てたらしいって ーやめなよ 聞こえるって ーいいのよ 邪魔だって 「君だって魔法使えるもんっ て言えばいいのに」 「マニアックすぎて彼女らは知らないわ。私の魔法」 「魔法を有効・無効にするとか いわれてもわからんよな」 <回想> 私が、魔法を使えないなんて誰が言ったの? 魔法が使えるようになって、この学校に来た。ちょうど高校生になるときだったから編入扱いだった。 小学校から魔法少女だった大半のクラスメイトからは、私の魔力が気になったようだ。 だが、加えて 魔力が自分より劣っていることを期待もしていただろう。 </回想> 「そうだ、授業が始まる前に言っておくことがあったんだ」 「何?」 席に座ると、葉波がそう言って紙を渡してくる。 そこには、私の評価が書かれているものだ。 「君が、最近やたら再教育をするべきでは的な申告を受けるんだよね」 「...ありがとう」 彼は、私が再教育を受けて洗脳されないようにしてくれているのだ。ちなみに、洗脳された魔法少女は、高確率で自爆する。つまり、再教育=死なのだ。 だれが、私を再教育させたいのかはわからないが、事実として何度も危機を救われているのだから葉波くんには感謝しかない。 *** (コマンドプロンプト起動...DONE) *** きれいなブラックドレスを纏った女性がいる。青いアイシャドが控えめにつけられて僕の腕を持っている。 大きな窓からは眼下の都市が広く見える。人が一人もおらず無人の貨物車とアンドロイドだけが行き交う道路が広がりすべてが管理されている。人間はスペースと名付けられた場所以外にはいない。スペースには、生活のすべてができるための設備。システムが用意されている。 いわゆる、未来空間・ユートピア というやつだ。 そして窮屈な自由の中から人間は思い思いの仕事を端末からする。それがすべて自分の化身のアンドロイドが外の世界で実行する。 スペースで体力も免疫も衰えた人間は、外へ出ることは一切ない。 今出れば、数空年前には軽い症状だった病気も重症となり最悪パンデミックとなりうるのだ。 だが、外への強いあこがれを抱き無謀にも 外へ出ようとするものが現れた。それらの人間から発想を得たスペース管理人のボスは、人体体感型ゲームを思いついた。 「それが、RED SKY」 僕は、隣の女性...凪葉とスペースの最下層「RED SKY」のサーバーがある部屋へとくる。鉄の古めかしい扉には、ペンキでプリントされたRED SKYがある。 開くとそこには、モノクロの空間の部屋の壁に血のような深紅の口紅で「RED SKY」と書かれていた。 「私たちは、このゲームのデバッカー。すべては、もろすぎる私たちのための娯楽」 そういう彼女に僕は、そうだね とささやく。 <PW ON <SET UP OS. <ACTION UPDATE ―Unit DO Update. ーUse 320TB on SSD OK? Y/n <Y ーNow Update and setting...[DONE] ーSelect version of R-E-D S-K-Y [3.0/4.5/5.5/6.0] ーNOW [5.5] <6.0 ーOK. please wait... ーWelcome to RED SKY6.0 ーInto the RED Space? Y/n(cancel) <Y ーClose your mouse. and think a "red" ーNow sending your personal data. <Hi YotsuBa? ーNow loading OS. ーOK. Calling YotsuBa... >Hi Minato and Rin. what's up? <tell me your version. >6.0 ーchose your action ーA)continue B)reboot C)start up D)shutdown >C ... *** 目の前で赤い血しぶきを巻き上げる魔法少女たちがいる。その横では、犠牲に動揺することなく確実に魔獣を仕留める別の魔法少女たち。そんな彼女らを私は一人で今日も見ていた。 魔法が使えないわけではない。 ただ、この当たり前の常識が 「魔獣を倒す」 それだけのことなのに、私にはどこか気がかりなのだ。 なぜ? 理由なんて説明ができない。できているなら、している。 ただ、どこか物語のように作られた常識がそこにはあって その(ことわり)が絶対となっているのだ。そして、私はもう... 目の前で無意味に死にゆく魔法少女を見たくなんかない。 自分が、その危機に瀕しているという事実から逃げ出したい。 それだけが、私の中にある最重要な気持ちだ。 だが、 政府が、国民が、世間が それを阻む。魔法少女が戦わないなんて選択肢なんて存在しないこの世界で私のような考えや気持ちは「バグ」でしかない。 *** 「みなと?不思議じゃない このタイミングでアップデートよ」 「前のバージョンが完結する前に強制的なアップデート...バグでもあったのかもね」 暗い廊下で僕らは置かれた自販機の明りのもとで話している。魔法少女が魔獣を倒す世界。ゲーム。 そこで、実際にゲームの登場人物として 他のユーザーとは違いゲームのアクションを操作できる私たちにすら知らされていない今回のアップデートに不安になっていた。 「こうして、僕らが現実の記憶を持っていること自体おかしいんだが」 そう。私たちデバッカーは不具合が起こらない限りはゲームの登場人物としての意識のみが優先される。つまり、登場人物なのだ。 「でも、不具合なんてないじゃない」 「そうなんだよ。こうして僕らが話していることは無視されるけど、それ以外の場面ではすべて反映されている」 何とも言えない気分だ。僕らにだけ今回の計画の決定事項が知らされていないというのも気になる。 **** (コマンドプロンプト起動...DONE) **** 「あははは。まったく人間は弱くなったもんだが、私は強いぃ」 「風邪ひいてるのに何言ってるんです?」 まったく秘書は俺の母かよ と思う。 今回、このスペースで暇を持て余して外に興味まで持った彼らのためにと作られたRED SKYも政府によって公式なサービスになるとは思ってなかった。おかげで懐事情は大変よろしい。 「ニヤニヤ笑わないでくださいね きもいですよ」 「はっきり言うなー どうせ、僕は嫌われ者だよ」 言い過ぎたと思ったのか秘書は、無言でチョコを渡してくる。罪な奴だ。 だがぁ...許すっ 「さて、本題ですが RED SKYのデバッカーの二人には今回 意識を保持させています。未知の事象に備えてもらいます」 「なるほどな。 今回は、実験でもあるからトラブルは起こさせないでほしいからね」 政府の公式サービスになったとたんにゲーム要素が消えて公共サービスだもんな *** ノイズ越しに流れる映像は、各地のスペースを代表するトップのトップ「大統領(スペーストップ)」だ。 「これはゲームだ。だが、同時に我々が外へ再び出るための実験でもある」 大統領から少し離れたところで、モニターと本人を見つつ考える。 ユートピアといわれたスペースも老朽化が否めないらしい。地下部はまだ問題ないが地上の屋上には雨風によって浸食が起こっており、小さいながらも穴が開いている個所もあるようだ。すぐに補修するが、間に合わなくなりつつある。やはり、人間は自然に囲まれるべきなのかもしれない。 ゲームとはいえ、現実との区別がないRED SKYはまさにぴったりの条件だ。現実同様に環境設定をすれば、魔法少女の物語を体験するとともに外に出ても死なないためのスキルが身につく。最高だ。 「さぁ 始めよう。 我々が外の世界へ羽ばたくために。自由が本当の自由で自然となるように...」 大統領はそう言った。
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