ハエと小娘:始

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ハエと小娘:始

ドンッ 「も~っ、痛いじゃないっ!!」 「悪い悪い!次からは気を付けるよ、花里[はなざと]さん」 娘にぶつかった少年は軽く謝ると、笑顔で教室を後にした。 「なんなのよ、あいつ!!」 「未咲[みさ]、大丈夫?」 「朱姫[あき]、あいつもう嫌~…」 「でも、五木[いつき]君に悪気は無いみたいだし…」 「だからよっ!だから、質が悪いのよ~…」 友人の朱姫に抱き着いた未咲は、ガックリと肩を落とした。 同じクラスになってからと言うもの、未咲は一日に最低一回は五木ヨウにぶつかられていた。 それまでは何の接点も無く、初めの頃は自分がぶつかる場所にいるからじゃないかと考えていた未咲。 だから気を付けてヨウを避けていたのだが、気付けばいつも近くに居て、避けてるにもかかわらずぶつかって来るのだ。 それとなく注意はしたものの、ヨウは謝りはするが気を付ける素振りを見せず、次第に未咲は怒鳴るようになっていった。 しかし、何度怒鳴ってもヨウはヘラヘラと笑うだけで、改善の見込みは無かったのだ。 「あいつ、絶対わざとよ…」 「う~ん…、あ!だったら、休み時間は私が未咲の席に来るようにしてみる?」 「え?」 「未咲が席についてれば、ぶつかられることは無いんじゃないかな?」 「…そうかな?」 「試してみよう?」 「うん…」 その日から未咲は、朱姫の提案で自分の席から動かなくなった。 しかし、休み時間になるとヨウは席に着いたままの未咲にもぶつかって歩き、未咲の怒りは頂点に達した。 ドンッ 「痛っ…、…もう!!」 「大丈夫、未咲…?」 「悪い!」 バンッ 「だから、どうしてあたしにぶつかってくるのよっ!?」 「いや~、本当に悪い!そんな気は無いんだけど、はしゃいでると周りが見えなくなるんだ…」 「それでどうして、あたしにだけぶつかるのよ!近くには朱姫だっているのに」 「何でだろうな~?」 「なんなのよ、一体!?」 「未咲、落ち着いて…」 未咲はヨウに食って掛かり、朱姫は慌てて未咲を宥めた。 一方、食って掛かられたヨウは、いつものようにヘラヘラと笑ってはいたが、理由を考える素振りを見せた。 その時、どこからか一匹の蝿が飛んできて、未咲の肩に止まった。 その事に気付き、軽く手で追い払った未咲。 しかし蝿はしつこく未咲の周りを飛び回り、背中やスカート、腕や髪に止まり、離れる様子を見せない。 しまいに未咲は肩を落とし、「ハエまでなんなのよ~…」と呟いた。 「何であたしにばっかり…」 「未咲…え?」 スッ キュッ 「…悪かったな」 「え…?」 あまりに落ち込む未咲を宥めようとした朱姫だったが、不意にヨウが未咲へと手を伸ばし、止まっていた蝿を捕まえる瞬間を目撃して目を見開いた。 蝿を捕まえたヨウは未咲に謝ると、その場を後にし、その言葉に顔を上げた未咲は不思議そうにヨウの背中を見つめていた。 ようやく落ち着いた時、未咲は朱姫からヨウが蝿を追い払ってくれたのだと聞かされた。 その事に驚きながらも、礼をしなければならないと考え、またいつものようにぶつかってくる時を伺っていた。 しかしそれ以降、ヨウは未咲にぶつかってくることはなくなり、未咲は安堵半分、礼を言えないもどかしさ半分で過ごしていた。 (も~…、どうしてこう言う時に限って、あいつはぶつかって来ないのよ…) 「未咲、まだお礼言えてないの?」 「…うん」 「私が呼んできてあげようか?」 「…ありがとう、朱姫。でも、自分で行くから大丈夫」 「…そう」 朱姫の言葉に少し考えた未咲は、自分からヨウに話し掛けることを決意した。   そうして次の休み時間、意を決して未咲はヨウの元へ向かった。 「ね、ねぇ、五木く…」 ガタッ 「ちょっとトイレっと…」 「え?」 未咲が話し掛けた瞬間、ヨウは勢いよく立ち上がり、教室を出ていってしまった。
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