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茶碗蒸しの容器は流しに片付けて洗う。
(もしかしたら、彼が具合が悪くなったのは私のせいかもしれない)と申し訳ない気持ちがふと胸をよぎった。
彼が作ってくれた銀杏焼きは、エメラルドグリーンの実に岩塩の粒がキラリと光ってとてもきれいだった。しかし私は銀杏の独特な苦みが苦手なのだ。
だから彼が日本酒を用意してくれている間に、串にささっていた銀杏を抜いて、自分の分以外の茶碗蒸しの器につっこんだのだった。さいわい茶碗蒸しがくずれていたため、違和感はなかったようで、彼は全く気が付かなかった。
本当は茶碗蒸しに入っていた銀杏も彼の方に移したいくらいだが、あまりにも銀杏だらけだとさすがに彼が気が付くかもしれないので、自分の茶碗蒸しに入っていた銀杏はプリンのようにつるんとしたタマゴと一緒に、がんばって丸のみした。
しかし銀杏は食べすぎると中毒症状を起こすことがあるらしい。
普通なら大量に食べなければ問題はないようだが、体調によっては量がさほど多くなくても中毒症状がでることもあるようだ。銀杏を余計に彼に食べさせたのがいけなかったのかも。
「看護師として、失格だな」と反省する。
それにしても彼が、ドクターアンリの事をそんなに好きだったなんて気が付かなかったな。病院に投書までして、引き止めようとしていたなんて。
そうだ! もしも彼と結婚することになったら、新婚旅行はフランスなんていいかも! ドクターアンリにフランスを案内してもらえるかもしれない。彼も喜ぶだろう。
手を持ち上げて彼が以前にプレゼントしてくれた指輪を眺めると、いいアイデア! とでもいうように、キラッと光った。
(おわり)
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