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「店員さん、可愛いねえ」
去っていく店員さんの背中に、ふみちゃんがため息をつくようにつぶやく。
「フミもとても可愛いです。赤い着物がとても似合いますね」
アンリがふみちゃんに笑顔を向けて言う。僕は言おうとした台詞を取られてしまい、言いかけて中途半端に開いた口をそっと閉じた。
僕が出遅れたことは認める。しかし好きな女性を褒める時、一瞬間が開いてしまう日本男子は僕だけではないはずだ。流れ星の早さで誉め言葉を口にするアンリに遅れをとってしまっても仕方ない、と自分を慰める。
「ありがとうございます」
ふみちゃんもアンリに笑顔で答えている。
店内にはNAM JUDGE(ナム・ジャッジ)というバンドの「諸行無常」という歌が流れている。切ない。朝のハッピーはいつまでも続かないということを僕に諭しているのだろうか。
ふみちゃんの笑顔は、僕に向けられるはずだったのにと思うと哀しくなる。
「NAM JUDGE(ナム・ジャッジ)」の歌は続く。おごれる人も久しからず……。
ふみちゃんの愛も移り変わっていくとでも言いたいのだろうか。肩を落として水を飲む。
けれどふみちゃんに気を使わせる訳にはいかない。僕は気力の全てを顔筋に集中して、微笑んだ。
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