お正月には初詣

2/2
前へ
/29ページ
次へ
 ピンポン、とチャイムが鳴る。彼だ! 走ろうとしたら、着物の裾が引っかかった。今日はおしとやかにしなくちゃね。(はやる)る気持ちを抑えて、早足で玄関に急ぐ。  玄関を開けると、彼が息を飲んだ。  確かに着物を着るというのは、サプライズだったけれど、手に持っていた荷物を全部落としてしまうなんて、それにしても驚きすぎじゃないかな?   玄関に用意して置いた草履に白い足袋の足を差し入れようとして、部屋の中に引き返す。白い楕円のテーブルの上の赤い口紅を手に取ってきゅっと塗って、小さな和柄の巾着袋に落とし込む。  彼を出迎えた時には、着物を汚さないようにと、まだ口紅をつけていなかったのだ。だけど口紅を塗るのはもう少し後でもよかったかもしれない。  なぜならはにかむような笑顔で玄関で待っていてくれた彼が、空いた両手で抱き寄せて、そっとキスをおとしてくれたから。
/29ページ

最初のコメントを投稿しよう!

66人が本棚に入れています
本棚に追加