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ピンポン、とチャイムが鳴る。彼だ! 走ろうとしたら、着物の裾が引っかかった。今日はおしとやかにしなくちゃね。逸る気持ちを抑えて、早足で玄関に急ぐ。
玄関を開けると、彼が息を飲んだ。
確かに着物を着るというのは、サプライズだったけれど、手に持っていた荷物を全部落としてしまうなんて、それにしても驚きすぎじゃないかな?
玄関に用意して置いた草履に白い足袋の足を差し入れようとして、部屋の中に引き返す。白い楕円のテーブルの上の赤い口紅を手に取ってきゅっと塗って、小さな和柄の巾着袋に落とし込む。
彼を出迎えた時には、着物を汚さないようにと、まだ口紅をつけていなかったのだ。だけど口紅を塗るのはもう少し後でもよかったかもしれない。
なぜならはにかむような笑顔で玄関で待っていてくれた彼が、空いた両手で抱き寄せて、そっとキスをおとしてくれたから。
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