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初詣には甘酒を
ふみちゃんの家の玄関を開けたら……、なんということだろう。着物を着て恥じらうように微笑むふみちゃんが立っていた。あまりの可愛らしさに、手に荷物を持っていたことを忘れて全部落としてしまった。しかしふみちゃんのために作ったおせち料理は、自宅に置いてきたので問題ない。
ふみちゃんを抱きしめて、着物からほんのすこしのぞく白いうなじに、「可愛い」って呟いたら、ふみちゃんはくすぐったがって身をよじった。腕の中から出したくなくて、ふみちゃんの唇をそっとふさぐ……。
その時、忌々しい音が鳴った。スマートフォンの通知音だ。ふみちゃんは巾着袋の中からスマートフォンを取り出して確認し、ちょっと首を傾げた。
「どうしたの、ふみちゃん」
「昨日、ドクターアンリと一緒の勤務だったんだけど、日本のお正月の話題になって。ドクターアンリも今日お休みだから、初詣に一緒に行きたいって……」
ドクターアンリはふみちゃんの勤務している病院にフランスから研修で来ているイケメンドクターだ。ナースにも患者にも、いつも親切で優しいので、大天使アンリと病院でも評判らしい。
僕は奥歯を噛みしめながら、唇を横にひっぱって笑顔を作った。
「ごめんね、ふみちゃん。二人で行きたいから、ドクターアンリは断れない?」
「うん。わかった。ちょっと待ってね……」
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