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スマートフォンの画面をふみちゃんの人差し指が滑るのを見ているのももどかしい。ふみちゃんの着物姿は、ドクターアンリには絶対に見せたくない。なぜならドクターアンリはふみちゃんに横恋慕しているに違いないのだ。これ以上ふみちゃんの魅力を見せる訳にはいかない。
「お邪魔しちゃ悪いから、一人で行くって。でもどこの神社に行けばいいのかわからないから、私達がどこの神社に行くのか教えてほしいって。教えてあげてもいいかな?」
僕はすばやく考えを巡らせた。僕たちがこれから行くのは、隣の市の比較的大きな神社だ。出店も多くはないが出ているし、参拝客には無料で甘酒が振舞われている。初詣にはちょうどいい。四日ともなれば人出は減ってきているだろうが、それでもまだまだ多いはずだ。
仮に待ち合わせしてもスマートフォンがなければ会えない確率の方が高いくらいだ。
それに背が高くて金髪のドクターアンリは目立つ。ドクターアンリに見つかるよりもこちらが先に見つける方が早いに違いない。アンリを発見したら、さりげなくふみちゃんの視界をふさぎつつ、その場を離れればいいのだ。
「うん。教えてあげなよ、ふみちゃん」
と僕が答えたのは、親切心からではなく、神社も教えてあげないなんてココロが狭い、とふみちゃんに思われたくない、という気持ちが百%だったことは否定できない。だけどそんなほんの少しの見得は仕方ないと神さまも思ってくれるはずだ、お正月なんだし、と僕は思ったんだ。
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