初詣には甘酒を

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僕の複雑な心中を知らないふみちゃんは、嬉しそうにふふふ、と笑う。紅い唇が花開くように広がった。  初詣に行く予定の神社は電車で一駅だ。歩いても行ける距離だが、ふみちゃんを履きなれない草履で長く歩かせるわけにはいかない。  隣の駅で電車を降りて少し歩けば、神社の参道はすぐそこだ。駅がある三階から一階に降りる外のエスカレーターからは、遠くの山が青い空にくっきりと見えた。快晴、といいたいところだが、小さな黒い雲がひとひら、空に散っていた。    参道には参拝を待つ人の列がすでに出来ていたので、最後尾に並ぶ。行列の途中の道端には、木のやぐらが組まれ、中では火が焚かれている。時々、中の木が崩れるのか、赤い火の粉が空に舞う。  やぐらの前には長テーブルが置かれ、小さな紙コップで甘酒を配っていた。  法被(はっぴ)を羽織った火の番人が時折、やぐらの中に木切れを放り込んでいる。そして希望者には側に積んである枯れ枝を手渡し、火に投じさせてくれる。今年の厄災を遠ざけるとのことで人気らしく、数人が並んでいた。木を投じた順に、元々並んでいた列の中に戻っていく。  「私も枝を入れたいな」  「じゃあ、もう少し近づいたら、焚火の列に並ぼうか」  参拝客用の枯れ枝は少なくなっているので、もしかすると早めに並んでおいた方がいいかもしれない……。枯れ枝を投げる人の列に目をやった。    「ん? あれは……」
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