66人が本棚に入れています
本棚に追加
ようやくアンリが手に持った枝をやぐらのほうに伸ばす……。
(ん……? あ、あれは……!)
次の瞬間、僕は走り出しドクターアンリの手から木の枝を奪い取っていた。
「Oh~、ふみの彼氏。どうしたのですか?」
(しまった、見つかった)
自分の失態に言葉を失い、唇を噛む。アンリは無邪気に笑顔を向けて、僕の返事を待っている。しかしドクターアンリとは話したくないので、ずい、っと歩を進めて、法被をきた運営スタッフに抗議する。
「この枝、夾竹桃じゃないですか! こんなの燃やしたら、死人が出ますよ!」
と強く言う。夾竹桃というのは、病害虫に強いので、学校や街路樹、民家の庭など、あちこちに植えられているありふれた樹木だが、毒があるのだ。夾竹桃の葉や枝、きれいな花だって猛毒だ。枝や葉を燃やしただけでも毒ガスとなり、煙を吸って死んでしまった事例も報告されているほどなのだ。
「そうだったのですか。ありがとう、ふみカレ!」
「いいえ、別に。じゃあ僕はこれで」
命の恩人に対して、適当過ぎる呼び名だと思ったが、抗議するより会話したくない。行列に戻ろうとそそくさと踵を返す。
しかしアンリとふみちゃんを会わせたくないという僕の願いはあっさりと打ち砕かれた。
最初のコメントを投稿しよう!